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 最初から既婚者と分かっていて、火遊びと分かっていて、
付き合ったのは自分。


 だが流石に2年以上も続くと相手に気持ちを持っていかれ、
徐々に心の持ちように変化が現れはじめ妻の座に座りたくなってしまった。



 いけないことだとか、そんな御託はもう関係ないのだ。
 理屈じゃない。


 石田と石田との家庭が欲しくてたまらない。
 その気持ちが日に日に膨らみ百合子は抑えられなくなっていった。



 カッコよく
『このままじゃ先が見えないのでお別れしましょ』
と伝え、別れて新しい恋人を作ろうと何度思ったかしれない。




 本当に誰か石田よりも好きになれそうな相手でもいればと思うのだが、
石田と関係するようになってから何故かとんと他の男性とは縁がない。

 そういうことも相まって、石田と別れることなど考えられなくなっていき、
 とうとう言わないでおきたかった言葉を自分から言い出してしまった。


 夫婦仲のことは知らない。



 石田から奥さんの不満は聞いたことがないのだからそれなりに
円満なのかもしれない。


 じゃあ、私とのことは?
 

 石田が結婚の話を自分に一切してこないことで、すでに結果は
出ているのかもしれないと思うが、簡単に引き下がれないという気持ちも
ある。



          ◇ ◇ ◇ ◇





 石田の前で『結婚』の二文字を思い切って出してみた。


 付き合い初めの甘い空気感があるわけじゃあないし、妻も子もいる人なの
だからとは思うけれど、彼の応えは自分が期待していた反応からは
随分と乖離していた。



 彼は一瞬戸惑いを見せたものの、すぐに淀みなく当たり前だと言わんばかりに
スラスラと答えた。




「良くできた妻であり子供たち共々愛しているので妻と別れるつもりはない。  
 君には……」

 言い掛けた言葉を遮り私は言った。




「分かりました。
 じゃあ最後に一度だけデートして下さい。
 それを石田さんとの最後の思い出にしますから」




 卑怯だが、卑怯な相手には卑怯な手を使うことにした。



 丁と出るか半と出るか、伸るか反るかのここ一番の大勝負に
出ることにした。



 負け戦になることもやむなしと決めているのだ。



 それこそ百合子の石田に対する本気度ここにあり、なのであった。




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