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さよなら、サヨナラ……大切な人
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『掛居』の二文字が出た時、ダンボの耳が大きく
動いた気がする。
そして相原の胸に動揺が走った。
彼女たち二人が話し始めた時、相原はすでに
缶コーヒーを手に窓際に立っていたのだ。
『相馬』の二文字でダンボになりかけた耳は聞いていくうちに
すっかりダンボになり、最後の方では動きそうになるぐらい
彼女たちの話を聞き逃すまいとダンボ耳が強く反応してしまった。
そして相原も同じように掛居のことだろうと思った。
自分は掛居とは親しくしているが正式な交際を申し込んで
いるわけでもない。
だから掛居が相馬と交際するかもしれないという先の予定を
わざわざ自分に話す義理などないのだ。
分かってるさ、分かっている。
だが本当のところはどうなのか。
彼女に聞かなければとも思うし、聞きたくないという
気持ちもある。
心中複雑なものがある。
以前彼女に相馬とは付き合ってないのかと尋ねたことがあり
『付き合ってはいない』との返事だった。
だからずっと仲良くなって、自分だけを見てくれていると
思っていたのに独りよがりだったなんて……。
相原は身体から力が抜けていきそうになるのを感じるのだった。
ぼーっとあれこれ思い巡らせているうちにいつの間にか
女子社員たちはいなくなっていた。
◇ ◇ ◇ ◇
片思いが砕け散りそうになったのは、果敢に相馬に質問した
石田ではなく、二人の会話を、俯き食事しながら傍で聞いていた
渡辺楓の方だった。
相馬の想い人が掛居花だとすれば、今まで何の接点もなく
遠くから見ていただけの自分では到底敵わないと思った。
石田が訊いてくれたお蔭で吹っ切れそうな気がした。
口から産まれたような石田ひまりの流布した噂話は、
さも付き合うことが確定された話へと、特に同フロア内全体に
流れてゆき、2月の末に正式に 相馬の異動の辞令が発令され
掲示板に貼り出されると、フロアーでは新しくカップルが
できそうだと活気づいた。
そこへ何も知らず出社してきた花は相馬が同僚たちから
『異動決まったようだな。寂しくなるな。
時々はこっちにも顔を出せよ』などと話しているところに遭遇し、
初めて相馬の異動を知る。
『異動? そんな馬鹿な。
私たち一緒に仕事するようになってまだ一年も経ってないって
いうのに』
異動の話だけでも驚いているというのに周りの女性軍から
声が掛かる。
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