さよなら、サヨナラ……大切な人

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 二人が四人掛けのテーブル席に付いたのを見計らって、
相原は入り口から入ってすぐの右手のカウンター席を
陣取った。


 入り口を挟みちょうど左右に別れた具合だ。

 首を動かせば男の様子が見える位置だ。

 掛居は上手い具合に相原から見て背中を向けた格好になる。
 ただし、残念なことにこの距離では彼らの会話はまったく
聞くことができない。

 位置的にずっと男性を見ている訳にもいかず
『一体俺は何しているのだろうなぁ』
とぼやくしかない相原だった。


          ◇ ◇ ◇ ◇



「久しぶり、元気だった?」

「うん、っていいたいとこだけど……どうかなぁ。
 一人でクリスマスの日にテクテク? トボトボ? 
までは落ちぶれてないかー、ははっ、歩いてるくらい
だから推して知るべしかな。

 近況はそんなところ。

 まぁ、今日は仕事めいっぱい頑張っちゃったわよぉ~。
 デートの約束もないのに定時で帰る為にね。

 笑っちゃうでしょ。
 でも匠吾に会うなんて思ってもみなくて、本当に驚いた」


 花の最後のほうの言葉は尻すぼみで呟きになっていた。


「今、むちゃくちゃうれしいよ。
 花に会えて。
 すごく会いたかった。
 馬鹿な俺を許してくれないかな」


「……」

「俺との一緒の未来を考えてほしいんだ。
 今話したことをどうしても花に伝えたくて、実は
仕事帰りに待ち伏せした。  
 会ったのは偶然じゃないんだ、実は……」


「そうなんだ、ははっ。偶然だって思ってたのに、よけい
吃驚だわ。

 あのね、ちゃんと私がこうして匠吾と向かい会って
普通に話せるのには|理由《わけ》があるの。

 あの日悲し過ぎて家で過呼吸起こしちゃって、泣いて泣いて
涙が枯れるまで泣き続けて食事も喉を通らなくて、オオバーかも
しれないけど私ってかなりの重症だったの。


 死にたかった。

 匠吾を憎まずにいられる世界に行きたかった。
 幸せだった時間を悲しい思い出にしたくなかった。

 頭と胸を切り裂いて記憶を取り除きたかった」



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