さよなら、サヨナラ……大切な人
149
二人が四人掛けのテーブル席に付いたのを見計らって、
相原は入り口から入ってすぐの右手のカウンター席を
陣取った。
入り口を挟みちょうど左右に別れた具合だ。
首を動かせば男の様子が見える位置だ。
掛居は上手い具合に相原から見て背中を向けた格好になる。
ただし、残念なことにこの距離では彼らの会話はまったく
聞くことができない。
位置的にずっと男性を見ている訳にもいかず
『一体俺は何しているのだろうなぁ』
とぼやくしかない相原だった。
◇ ◇ ◇ ◇
「久しぶり、元気だった?」
「うん、っていいたいとこだけど……どうかなぁ。
一人でクリスマスの日にテクテク? トボトボ?
までは落ちぶれてないかー、ははっ、歩いてるくらい
だから推して知るべしかな。
近況はそんなところ。
まぁ、今日は仕事めいっぱい頑張っちゃったわよぉ~。
デートの約束もないのに定時で帰る為にね。
笑っちゃうでしょ。
でも匠吾に会うなんて思ってもみなくて、本当に驚いた」
花の最後のほうの言葉は尻すぼみで呟きになっていた。
「今、むちゃくちゃうれしいよ。
花に会えて。
すごく会いたかった。
馬鹿な俺を許してくれないかな」
「……」
「俺との一緒の未来を考えてほしいんだ。
今話したことをどうしても花に伝えたくて、実は
仕事帰りに待ち伏せした。
会ったのは偶然じゃないんだ、実は……」
「そうなんだ、ははっ。偶然だって思ってたのに、よけい
吃驚だわ。
あのね、ちゃんと私がこうして匠吾と向かい会って
普通に話せるのには|理由《わけ》があるの。
あの日悲し過ぎて家で過呼吸起こしちゃって、泣いて泣いて
涙が枯れるまで泣き続けて食事も喉を通らなくて、オオバーかも
しれないけど私ってかなりの重症だったの。
死にたかった。
匠吾を憎まずにいられる世界に行きたかった。
幸せだった時間を悲しい思い出にしたくなかった。
頭と胸を切り裂いて記憶を取り除きたかった」
よろしければポチ、宜しくお願いいたします。
書く励みになります。