さよなら、サヨナラ……大切な人

 


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 気が付くと、凛ちゃんの『あーぁー、うーぅー』まだ
単語になってない言葉で目覚めた。



 ヤバイっ、つい凜ちゃんの側で眠りこけてたみたい。



 私はそっと襖一枚隔てた隣室で寝ているはずの
相原さんの様子を窺った。





『良かったぁ~、ドンマイ。まだ寝てるよー』



 私の失態は知られずに終わった。


 私はなるべく音を立てないよう気をつけて凛ちゃんの子守をし、
彼が目覚めるのを待った。





 しばらくして起きた気配があったので凛ちゃんを抱っこして
近くに行くと、笑えるほど驚いた顔をするので困った。




「えっえっ、掛居さんどーして……あっそっか、来てもらって
たんだっけ。寝ぼけてて失礼」


 それから彼は外を見て言った。




「もう真っ暗になっちゃったな。遅くまで引っ張てごめん」



「まだレトルト粥が2パック残ってるけど明日のこともありますし、
土鍋にお粥を炊いてから帰ろうかと思うので土鍋とお米お借りして
いいですか?」



「いやまぁ助かるけど、君帰るの遅くなるよ」




「ある程度仕掛けて帰るので後は相原さんに火加減とか見といて
いただけたらと……どうでしょ?」




「わかった、そうする」




 私は何だか病気の男親とまだ小さな凛ちゃんが心配でつい
相原さんに『困ったことがあれば連絡下さい』
とメルアドを残して帰った。





 帰り際病み上がりの彼は凛ちゃんを抱きかかえ、笑顔で
『ありがと、助かったよ』と見送ってくれた。


 私は病人と小さな子供にはめっぽう弱く、帰り道
涙が零れた。


 こんなお涙頂戴、相原さん本人からしても
笑われるのがオチだろう。



 たまたま今病気で弱っているだけなのだ。




 普段は健康でモーレツに働いている成人男性なのだから
泣くほど可哀想がられていると知ったらドン引きされるだろうな。


 そう思うと今度は笑いが零れた。



 悲しかったり可笑しかったり、少し疲れはあるものの
私の胸の中は何故か幸せで満ち足りていた。






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