さよなら、サヨナラ……大切な人
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◇企業内保育所
花が新しく入社した三居建設(株)には日中、
未就学の子供の預け先がなくて困る社員たちのための
企業内保育所というものがある。
入社して少し落ち着いた頃、上司の指示で
派遣社員の遠野さんに案内されることになった。
彼女の説明によると12名の乳幼児が預けられていて
保育士が2名、補助のパートが1名……併せて3名で
保育しているという。
私たちが部屋を覗いた時、1才~4才児がそれぞれ
思い思いに遊んでいるところだった。
遠野さんから説明を受けていると私たちに気付いた40代と
おぼしき保育士の|芦田佳菜《あしだかな》女子ともう少し
年下に見える|綾川結衣《あやかわゆい》さんとが、
私たちの方へと挨拶にきてくれた。
二人ともざっくばらんで話しやすく初対面だというのに
ぜんぜん気を張らなくて済み、私は自分のその時思ったことを
構えることなく口にした。
「時々、子供たちに会いにきてもいいでしょうか?」
今まで身近に小さな子はいなかったし、匠吾との結婚を
考えていた頃も子供のことなんて何にも考えたことなど
なかったというのに。
ただ身近で小さな子たちを見ていて、心が癒され
そんな気になったのだと思う。
「ふふっ、掛居さんも、なんなら遠野さんも遊びにきてね。
子供たちも喜ぶと思うわ」
そう芦田さんから声が掛かると、側にいた綾川さんも
それから少し離れたところから私たちの会話に入っていた
パートの松下サクラさんも「いつでもきてくださいね」
と言ってくれた。
自分たちのフロアーへの戻り道、遠野さんがこそっと
教えてくれた。
「えっと、松下さんは既婚者で正社員のおふたりは独身なのよ」
「独身でも、ずっと可愛い子たちといられるなんて
素敵なお仕事よね~」
「あらっあらっ、もしかして掛居さん、保育所に
異動したかったりして……」
「うん、次の異動先の候補に入れるわ」
「掛居さん、その頃私がまだ独身で、無名の小説家で
時間に余裕があればご一緒させてください」
「いいわよぉー。
遠野さんと一緒かぁ~、何だか楽しそう。ふふっ」
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