さよなら、サヨナラ……大切な人

 

 


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 この時魚谷はちゃっかりと派遣会社の担当者にその男性社員の
プロフィールみたいなものを訊き出していた。



 聞けたのは氏名と正社員ということ、そして独身だということ
くらいだったのだが。


 知りたいことのふたつが入っていたのでその場で
『行きます、お受けします』
と答えたという経緯があった。


 そう、当時結婚を焦っていた魚谷は相馬付きになった当初から
彼をターゲットに絞っていたのだ。



 過去の不運のこともあり、余裕のない魚谷は相馬の
『自分にはトラウマがあって一生誰とも結婚しない生き方に
決めている』と言う言葉も馬耳東風、異性の気持ちを虜にするのは
今まで簡単なことだった魚谷にしてみれば、自分のほうから
積極的にいけば、そんな普通では信じられないような考えを
変えることなど、いとも簡単なことだと気にも留めていなかった。




 思った通り、自分がデートに誘えば相手にしてくれた。




 好きだとは一度も言われていなかったが、当初あんなふうな
言葉を語った手前、そうそう自分に好きだなんて言えるわけも
ないだろうと、そんな風に自分勝手な解釈でいた為、結婚の話を
出した時も少しの勇気を出すだけで話題に持ち出せた。




 それなのに彼は……
『魚谷さんの中でどうして僕たちが付き合ってるっていうことに
なってるのか分からないけど最初宣言していた通り僕は誰とも
結婚しないから、その提案は無理です』
とはっきりと自分に告げたのだ。



 一瞬何を相馬が言っているのか分からなかった。



 過去の男たちは皆、私の気を引く為に必死だったのよ。


 ふたりの|男性《ひと》たちから切望されたことも
1度だけじゃないのよ。



 そんな私が結婚を考えてあげるって言ってるのに、何、それ。

 信じられない、信じられない。




 私は気がつくと彼を詰り倒し店を出ていた。



 家に帰り冷静になると、自分のしてきたことが如何に
恥ずかしいことだったのかということに思い至り、病欠で
一週間休み続け、そのまま病気を理由に辞職した。




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