さよなら、サヨナラ……大切な人

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 雨宮が去り、気を効かせて宮内と星野もテーブル席から離脱、
その場に残された魚谷と柳井のふたり……は、成す術もなく
しばらく無言で立ち尽くした。




「ほんとにごめんなさい。
 最初に恋人はいない、というシチュエーションでレセプションに
参加したせいで、本当のことが言えなくなってしまって。

 柳井さんから念押しされた時にちゃんと話せばよかったのにって
思うけど……だけど多分あの時私は婚約者がいることをあなたに
知られたくなかったんだと思います。

 あなたから声が掛かればいいのにと思ってしまったから。

 近々雨宮さんに話さなきゃって思ってたところだったの。

 話す前にまさか今日こんな形で知られることになるなんて……」




「君のいうことを信じたいけど、まるっと信じられるほど俺は
子供でもなく純粋でもないのでね。

 君は天秤に掛けてなかったって言い切れるのか?

 本当に近々雨宮に報告するつもりだったのかなぁ。

 俺とのことがちゃんとした正式な交際の形になるまでは、
雨宮のこと保険にしておこうってそんな風な考えが少しも
なかったって言える?」




「えっ、私がふたりのことを天秤にかける?」



 私は柳井さんの鋭い言葉に反論できなかった。


 彼らふたりに話すチャンスがなかったわけじゃないのに話さず
時間稼ぎしていたのだからそう思われてもしようがない? 

 自分の気持ちを振り返ってみるに、そうじゃないわとも思うし、
そうなのかもとも思えて、混乱してしまった。





「ね、俺あなたのことは忘れる、だから雨宮に謝罪して
戻ってやって。

 一時の気の迷いだと言って。
 頼むよ、俺は……雨宮とは一生の友だちでいたいんだ。

 俺たちってまだ付き合い始めたばかりでしょ? 

 そんなに深いところまでいってなくて、元いた場所まですぐに
戻れるから。


 俺あなたとは親友の奥さんとして付き合っていけるから、俺のことは
忘れて」




 私は柳井さんの言葉を一言、ひと言、噛み締みて聞いた。

 彼の言うことが正しい。

 正しくない方へ踏み出していた私を正しい道に戻してくれるのだ。

 彼が正しい。



 だけど……この切なくてやり切れない感情とどうやって
向き合えばいいのか、 分からなかった。







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