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「魚谷さん、いつから柳井の彼女になったのかな?
あなた確か、俺の婚約者ではなかったかな?
俺の誘いを断って柳井たちと会ってたってわけだ。
柳井には話してるの?
婚約者がいること……って話してないよね、たぶん」
「洋平さん、黙っててごめんなさい。
いつか話さなきゃって……」
「柳井、その人俺の婚約者……だった人かな。
悪いけど帰るわ。また連絡する。
皆さん楽しいところに水差すような形になってすみません。
失礼します」
「雨宮、婚約したのいつだ?」
「先月の頭」
「魚谷さん、出会った時付き合ってる人いないって言っ……
いたんだ、参ったな」
柳井の呟きを聞くや否や雨宮は踵を返していた。
星野が宮内のほうを見ると首を横に振り小声で
「部屋に行こう」
と囁き、その場から星野を連れ出した。
「星野さん、知ってた?」
「つい最近までっていうか、えっとそうじゃなくてぇ、まず婚約者
がいるって話はレセプションに行く少し前に知ったって感じかな。
魚谷とは久しく会ってなかったから。
だいたい柳井さんとのことを知ったのが最近、宮内さんから
聞いて知ったの。
知ってから私も焦っちゃって……。
それで柳井さんにはまだ話せてないっていうの聞いて、せめて
雨宮さんには心変わりしたことを伝えた方がいいよって
話してたところっていうか……。
話す前にこんなことになったっていう感じかなぁ~。
どうしたらいいんだろう、私がレセプションに
誘ったばっかりに。雨宮さんに申し訳なくて」
「星野さん……」
「はい?」
「星野さんまで他に誰か恋人がいるなんてこと……」
「ありません。いません、いませんよ。信じて下さい」
「分かった、ほっとしたよ。
後は柳井の気持ちひとつだな。
多分もう結論は出てると思うけど」
「えっ、柳井さんの気持ちがそんなに簡単に分かるの?」
「時々聞かされてたからね、雨宮さんのこと。
彼とは大親友らしい。
柳井なら親友の婚約者とどうこうはないと思うね。
例え、魚谷さんが柳井推しでもね。
今回の場合なら間違いなく男同士の友情を取ると思う。
すごく魚谷さんのことを気にいってたから辛いだろうけど。
そこはまだ付き合いも始まったばかりだし、なんとか踏ん張って
気持ちを立て直すんじゃないかな」
「え~、そうなの?」
「そうさ、俺だって同じ立場ならそうするよ」
「え~」
「情けない声、出さないっ」
「……男の人って」
「なに?」
「なんでもないです」
私は悲しさを装いつつも、きっぱりと言い切る宮内さんのことを
惚れ直してしまった。
『魚谷ぃ~、ごめん』
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