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ただ……気のせいか失敗が続いてから、以前よりも話し掛け
られる回数が減ったかもしれない。
そう思い始めると居てもたっても居られなくて、夜になると
涙が零れた。
毎日異性と一緒に仕事をするなんて初めてのことで、しかも
その相手が自分から見ると神々しくて眩しい存在へと時間と共に
大きく変化してしまい、そんな自分の感情を持て余しオロオロ
してしまうばかり。
眩しい存在だと認識しているくせに親しくなりたいという想いが
日に日に強くなり、反して現実はというと、彼とはお茶を誘われる
どころかちょっとした雑談さえ交わせてなくて寂しさは募る
ばかり。
そんな風に悲しい一人相撲をしていた槇原は妄想して苦しくなる
毎日を手放す決心をするのだった。
家族の病気を理由に辞職を申し出て一週間後に逃げるようにして
辞めた。
「相馬さん、急に辞めることになってすみません」
「あぁ、大丈夫だから。
派遣会社から次の人をすぐに紹介してもらえるみたいだから、
心配しないで。
おかあさんだったかな? 看病大変だろうけど頑張って下さい。
また派遣業務に戻ったら一緒に働く機会があるかもしれませんね。
その時はまたよろしく。今日までありがとうございました」
「あ、こちらこそお世話になり、ありがとうございました」
最後までやさしい相馬に、槇原の胸はやさしくされたことへの
うれしさが一割、自分らしさを発揮できないまま去って行くこと
への寂しさが九割だった。
◇ ◇ ◇ ◇
こうして相馬は補佐してくれる人を本格的な夏が来る前に
失った。
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