81.
ルームツアー
香さんのアパートは10世帯ほどの規模でL度型に建てられていて
2階建てだ。
駐車場も割合広く区分割されていて、全敷地面積はそれなりに
広々としている。
1階にはちょっとした家庭菜園のできる小さな庭が付いていて
それが気に入って決めたということだった。
玄関前に立ち、彼女は言った。
「神谷さん、ようこそ我が家へ。
さぁ~、今からルームツアーにご招待しますわ」
ルームツアーとな? はて?
ルームツアーという聞き慣れない言葉に俺は戸惑いを覚えた。
「ささっ、雨汰くん芽衣ちゃんたちぃ~、香ちゃんのお部屋に
どうぞ~」
と子供たちに部屋に入るよう促している彼女の声掛けを
聞きながら、俺は漸《ようよ》う閃いた。
なぁ~んだっ、洒落た言い方だけど要は部屋を案内すること
つまり見せたことない部屋を見せるってことじゃないか。
難しい言い回しをしちゃってからにぃ~。
焦ってしまったじゃないか。
「おじゃましまぁ~す」
玄関を潜ると・・・
おや、とても見通しがよいじゃないか。
ホントに1部屋しかなかった。
1部屋の向こうは外だった。
81-2.☑
「神谷さん、あまりの狭さにびっくりしました? 」
「まぁ、その・・それよりルームツアーplease! 」
「みんなぁ~、持って来た玩具で遊んでてね。
ではでは神谷さんドアの裏側をご覧くださいませぇ~」
見ると、鍵と何かのリモコンが吊るされている。
俺の視線に合わせて彼女が説明してくれる。
「帰宅したらすぐに鍵はここに掛けます。
そして外出する時はここから持って出ます。
こうして保管場所を決めてると失くして探し周る必要もなくて
とっても便利なの」
「このリモコンは? 」
「これね、無茶苦茶便利なんですよ。
照明を操作するリモコンなの。
帰って来るでしょ?
暗くなってからの帰宅時はそれはもう本当に重宝するんです。
ここから部屋をすぐに明るくできるので」
「へぇ~、すごいね。僕には思いつかないかな」
鍵もリモコンもマグネットで付けられていた。
「狭いからこその発想ですね」
玄関入ってすぐの左壁には埃取りブラシと塵取りが吊られている。
なるほど、掃除しやすい工夫なんだな。
そして入ってすぐ右側には洗濯機、その上には電子レンジが
乗っかってる。
洗濯機のすぐ隣にはチェストが置かれている。
鏡と手洗いだけの洗面所には、こまごまとしたものを置けるような
収納場所がなく、そのチェストにタオルだとかドライヤーだとか
雑貨のストック等、諸々入れてあるのだとか。
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