77.☑

" Divorce 離婚 "


 町田は香を責めることもせず、走り去って行った。
 この夜を境に町田は香の前から姿を消した。

 何かの理由で早く仕事を片付け帰国したのだろう、疲れて
いるだろうに真っ先に自分に会いに来てくれたのだ。


 合鍵は渡してあって、香の部屋は町田がいつでも帰れる
部屋になっていた。

 恋人だった町田と目の前の亀卦川。
 亀卦川を好きかどうか・・。

 町田が今でも恋焦がれる恋人で、友人であることは
間違いなかった・・のに。


 裏切りを知られた以上、私は町田を追いかけてはいけないと
思った。

 彼に許しを請うてはいけない。
 これ以上町田を苦しめることなんてできない。

 彼との未来はこれで潰《つい》えてしまった。
 分からなければいいという悪魔の囁き、私は天に罰っせられたのだと
思った。


 人の信頼を裏切る・・これほど重い罪はない。
 いつか自分も信じていた誰かに裏切られるという苦しみを
味わうのかもしれないと、香はその時思った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・☆彡

 そうだよ香、町田くんの苦しみを考えたら私なんて、夫に理不尽で
酷い言葉で離婚を迫られても苦しむ資格すらないわ、、じゃなくて

 町田くんを苦しめた10倍、私なんて苦しめばいいンだ。


 町田くん、ごめん。
 ずっとずっとごめん。

 死ぬまであなたにした自分の罪は忘れない。
 許してとは言いません。
 許されることではないから。

 その夜、香は部屋の窓から薄暗い雲を纏った夜空を見上げ、町田のことを想った。


 翌日、香は母親に離婚の話を告げ、協力してもらい、5日後
家を出た。


77-2.☑

 
 「香、病気が快方に向かってること康之さんには話してなかったの? 」

 「夜帰って来ないし、朝も話せる雰囲気じゃなくて言いそびれてた」

 「康之さん、今も香が病気だって思ってるのね」

 「そうだねー」

 「病気はもうほとんど治ったよって話したら、離婚の話、撤回
するんじゃないかな? 」

 「今更だわ」

 「そうね、そりゃそうだ」
 
 「おかあさん」


 「うん? 」


 「私、ここから20~30分ほど離れた先で、部屋借りようと思ってるの」


 「へぇ~~」


 「なんでって聞かないの? 」


 「なんで? 」


 「ひみつ」

 「へぇ~~」
 
 「なんでって聞かないの? 」


 「なんで? 」



 「心も住む場所も、落ち着いたら話聞いて」


 「分かった、楽しみ。
 だって香の表情が明るいから、きっと楽しいことじゃないかなって
思うから」


 「うん、なかなか近いかも」

   
 「さぁてとっと、今日はおでんでもしてあったまろうか」


 「おっおー、おでんいいねン」


 「また香と一緒にご飯食べられるとは。
おかあさん、うれしいわぁ~
ねぇ、あなた・・」


 「香、何も気にせず家でゆっくりすりゃあいいさ」

 「お父さんお母さん、ありがと。いろいろとご心配おかけして
すみません」

 「 香のせいじゃないもの。
 またいいことあるわよ、ねぇあなた? 」


 「あぁ、そうだな」



   

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