薬を飲んでも体調が全然よくならない。でも、やめたらもっと悪くなるかもしれない。そんな不安が「薬漬け医療」に拍車をかけている。薬は使い方によっては毒にもなる。日本初の「薬やめる科」院長が語る「減薬・断薬」のススメとは──。
もし、あなたが病院で医師から薬を処方されず「しばらく様子を見てください!」と言われたら、恐らく不安になり「何か薬を出してくださいよ、あなた医者でしょ?」となるはず。理由は簡単。現代の医療ではいつの間にか、病院に行ったら薬をもらうのが当たり前になってしまったからだ。
「薬漬け」と言われて久しい日本の医療。と、そんな医療の現状に疑問を抱き、12年、熊本市で日本初の「薬やめる科」を開設したのが「松田医院和漢堂」の院長・松田史彦医師だ。同氏は4月下旬に著書「日本初『薬やめる科』の医師が教える薬の9割はやめられる」(SBクリエイティブ刊)を上梓。その考え方の基本にあるのが、
「あらゆる薬は毒であるということ。ただ、その毒がどうしても必要なこともある。だから患者さんは医者を単なる助言者だと考え、薬に使われず薬をうまく使うこと。そして危ないと思ったら恐れずにやめることです。それが薬に殺されない唯一の方法です」
さて、同医師が教える「薬の毒と上手につきあう方法」とは──。
早期発見、早期治療というスローガンのもと、健康診断や人間ドックで基準値から外れると、すぐに薬を出される現代医療。ところが、実はその基準値が問題なのだという。
現在、日本高血圧学会が定義する高血圧は
「収縮期血圧(上の血圧)140mmHg以上」もしくは
「拡張期血圧(下の血圧)90mmHg以上」。
「でも1960年代まで、日本では上は『年齢+90』までが正常とされ、その後78年にWHO(世界保健機関)が血圧の基準は年齢に関係なく160/95以下が正常と定め、日本もそれにならい基準を見直したんです」
しかし、87年に当時の厚生省が出した「老人基本健康マニュアル」では「65歳以上は『180/100以上』と基準が変更。さらに99年には「139/89以下が正常」に見直されることになった。
「基準値が少し変わるだけで、高血圧とされる人が一気に増えたり減ったりする。つまり、基準とはその程度のもの。しかも、今の基準は年齢・性別をほとんど考慮していない。一般的に高齢になるにつれ血圧が上昇することは医学の常識です。それを無視した基準値にはまったく意味がないということです」
血圧が高いと心筋梗塞などの循環器疾患や脳梗塞、脳出血など命に関わる重大な疾患を招く危険があると言われるが、
「血圧が高いのは血液を脳や筋肉を含め体全体に行き渡らせるため、どうしても必要なので高くなっただけです。特に高齢者は動脈硬化により血管が硬く、内部が狭くなっているので血圧を上げないことには血液をスムーズに流すことができない。それなのに無理して血圧を下げたらどうなるか‥‥結果は推して知るべしです」
基準値の問題は血圧だけでなく、血糖値やコレステロールについても同様だと続ける。
「血糖値については08年にアメリカ・カナダで行われた大規模試験で「HbA1c」(赤血球中のヘモグロビンのうちどれくらいの割合が糖と結合しているかを示す検査値)を6.4%以下にコントロールした患者グループと7.5%と緩くコントロールしたグループを比較。すると前者が総死亡率で22%も増加したという結果が出て、急きょ試験が中止になったことがあるほど。血糖値でいちばん問題のなのは、数値の高い低いではなく急激な変動。つまり、血糖値は『やや高め』でもまったく問題なし。無理して『よい』とされる基準に下げることはないんです」