「八月の狂詩曲」黒澤明

映画が公開されるもあまり人気がなかった作品だった記憶があります。

原作の本があるみたいですがそれは未読です。

久しぶりの黒澤映画ということでとても楽しみにしていました。

個人的にはとても好きです。

調整がとれていないピアノを面白半分に弦を押しているシーンから始まります。



それに関わらず人は深い悲しみ深い傷を負ってしまうものだと思っています。そして、それを誰に言うわけでもなく語源化されないまま、ずっと心の奥に鈍痛として残ってしまうものだと思っています。

その原因が何かという訳ではなく、日々の生活や人生というものは続いていくし、時代も変わっていく。その流れに取り残されるように人の心の悲しみというのはあると感じています。

失ってしまった者に対する哀愁も自分にしか分からないし、その痛みを抑えながらも、時として何かの拍子に露出してしまう…。


供養、法事で蟻の行列を映したシーンは本当に居た堪れない者の気持ちが伝わって来たし、夏の暑さのなかに潜む狂気に似た想いの一旦も伝わってくる映画でした。

公園のシーンもその鎮痛な思いが伝わって来て苦しくなりました。

最後は幻想で豪雨の中、カサを差して必死に助けに向かい走り出すシーンは、運命に対して抗うものの人生が象徴されているようで、そこに最後に「野ばら」が流れ、すべて昇華するものを感じました。


何度も見返した映画です。

当時アメリカからも批判された映画ですが、映画の持つ本質は別のところにあると感じています。