人情紙風船 1937年 日本映画


江戸時代の長屋暮らしの浪人とそこに住む住民の話。

長屋の風景を見ていると私の子供時代に長屋みたいなつらなった家々があって、それを思い出して何とも懐かしい気持ちなりました。

フィルムもモノクロ、音声も聴き取りにくくてほとんどの会話が分からないまま進んで行きましたが、浪人が昔の父の知人に話しをしに行くあたりから目が離せなくなりました。

だんだんと長屋に住む浪人の境遇や気持ちが分かってくる。そして、そこにヤクザが登場して来て話しは進んで行きます。

武士道の精神とプライドがありながらも生活の貧しさ…。

その中でも紙風船を造る内職をしながら淡々と夫を支える妻がとても印象に残るものでした。


隣りと繋がっている裏庭、裏庭の狭さ、狭いながらも生き生きとした草花、会話の奥に見える障子、長屋と長屋との狭い道の水溜まり、降り続く雨…、貧しいながらも何とか生活を維持し、楽にならないかと心をすり減りしていく日々、微かな明るさを求めて酒を呑み、どんちゃん騒ぎをしてまう…。


武士としての生き方、商人としての生き方…。


時代は違いますが、私の小学生の頃や中学生の頃の町の雰囲気を感じて懐かしさと切なさを感じてしまいました。


もう今の福岡には子供の頃の風景はありません。


映画の最後、浪人の妻が内職で造った紙風船が微かな風に吹かれてフラフラと揺れて長屋の溝に落ちていくシーンは何とも切なくてしかたありませんでした。


映画を見終わったあと「欲望という名の電車」という映画を観たあとと同じように切なくとても哀しい気持ちになりました。

そして、哀しいながらも目の離せなくなる映画であり、とても面白く感じました。


監督の山中貞雄さんはこの映画を撮った後に戦地に向かわれ28歳という若さで亡くなられています。