ディスコースのジャンルに関する研究は、修辞学の伝統、ESP(English for Specific Purpose)、Sydney Schoolが関連する。
Sydney Schoolとは、1980年代以降、シドニー大学David Rose, J.R. Martin等が主導で、ハリデーのSFL(Systemic Functional Linguistics)に依拠したジャンル研究を展開し、その教育的応用において相応の成果を示しているグループである。以下、その成果の一端を示すもの。
https://www.equinoxpub.com/home/learning-writereading-learn/
タイトルのLearning to Write/Reading to Learnは、「書くことを学ぶ/学ぶために読む」と訳すだけではピンとこない。特徴は、Readingの目的にある。
Reading to Learnとは、ただ知識を得るために読書をするという意味ではなく、読むものとは書かれたものであり、書かれたものにはジャンルに基づく情報の展開法や構造がある。そのことを学ぶために読む、ということである。
つまり、自分が読む読み物がどのような目的でどのようなパターンで書かれたのかを学ぶために読むことを通じて、今度は自分が書くための力をつける、そういう学び方のことである。
このリーディングからライティングへの展開について、以下、ブックレビューの一節がわかりやすい。そこには3つのステージ(deconstruction[解体], joint construction[共同構築], independent construction[個別構築])が含まれる。
The deconstruction stage is where the teachers provide the learners with a model text and break it down to its components at whole text, paragraph and clause levels. This stage is followed by the joint construction stage where the whole class constructs a text of the same genre under the supervision of the teacher. The joint construction stage is the key to the mastery of a particular genre, as underscored by Rose and Martin. The third stage, independent construction, is where students construct another text of the same genre on their own.
ARAL 37:3 (2014), 280-283 DOI 10.1075/aral.37.3.07dev ISSN 0155–0640 / E-ISSN 1833–7139 © AUSTRALIAN REVIEW OF APPLIED LINGUISTICS
つまり、モデルテクストをまず読みながら、全文・パラグラフ・節レベルで、要素分解を大なう。次に、同じジャンルの別テクストをクラス全体で組み立てる。最後に、生徒個人が同じジャンルのさらに別のテクストを組み立てる。
このアプローチが示唆しているのは、リーディングとライティングを教育的にスムーズに接続するためには、ディスコースジャンルについての理解が欠かせないということである。
ハリデーの選択体系機能言語学(SFL)は、独自の用語が多く、分類過多の側面があることも否定できない。しかし、その一方で、レジスター変数からなる関数値としてジャンルを捉える発想は、多様なディスコースジャンルに応用が効くものではないかと思われる。
以下は、最近ふれたRose(2012)のGenre in the Sydney Schoolから、気になるところについてのメモ。
Rose, D. (n.d.). Genre in the Sydney school. The Routledge Handbook of Discourse Analysis. doi: 10.4324/9780203809068.ch15
例えば、storiesと一口に言っても、シークエンス(時系列の展開)があるか否か、葛藤要因がある(問題状況が生じる)か否か、それが克服されるか否か、克服されない場合、共感と教訓のいずれを意図するか等々で、recount, anecdote, exemplum, narrativeに分岐する。Narrativeの典型的展開には、Orientation^Complication^Resolutionが含まれる。
我々が「物語」やストーリーというときには、このnarrativeの展開をイメージしていることが多く、その説得力も他のものよりも強いとされる(問題解決のドラマ性から感情移入しやすいことなどが要因として考えられる)。
一方、いわゆる論説・評論と呼ばれるexpositionであれば、Thesis^Arguments^Reiterationが含まれる。ライティングの基本形で、5パラグラフの指導が行われたりするが、そこでよく言われる「主題提示〜議論(3つの論点)〜主題換言」の展開が、これに相当する。
このようなジャンルセンシティブな構造把握があれば、読む力だけでなく書く力の向上につながるというのは、見えやすい道理である。
SFL流の傾向として、やはり、時に分類過多に陥るところがあり、釈然としないエリアもちらほらと出てくる。そういう箇所は、現場重視で、ネグるなり調整するなりしたらよいだろうと思う。金科玉条のごとく崇めるものではないので。
以下、その意味で、煩雑でありながら、それなりに面白いとも思うところ。
例えば、information(情報提示)系については、大きく分けて、histories, explanations, reportsがある。そのうち歴史系は、自分の人生の出来事を語るautobiography, ある注目すべき人物について語るbiography、そして、社会の事象について語るhistoryがあるが、その歴史を語る際に主観的な解釈がなければ単なるrecountであり、因果関係などについて主観的な解釈を含めばaccountになるという捉え方。物語のジャンルでも、recountとnarrativeは物語の葛藤とその克服の有無という点で異なっている。また、information系のreportsには、descriptive(描写)、classifying(分類)、compositional(分解)が含まれる。
さらに、evaluating(批評)系に(verbal, visual, musical) textのreviewがあるが、これはContext^Description^Evaluationという展開を典型とする。ここにtext解釈(interpretation)が含まれると、概して、Evaluation^Synopsis^Reaffirmationの展開となる、など。
これらは分類のための分類となってしまっては意味がない。この種のアプローチを現場で応用する際には、実際のテクストを使って、実際に読みながら要素分解を行うという行為を実践して、十分に納得できる分析ができたら、それを踏まえて、construction(構成)のステージへ移るという作業を反復することが肝心だと思う。
そこで、不要とみなされるジャンルまで網羅する必要もなければ、ジャンル分類のボーダーがしっくりこないところがあっても、それは大きな問題ではないと思う。
とは言え、ジャンルに関する意識を高めることで、リーディングとライティングの架橋がよりスムースになるというメリットは、可能な限り実感したいと念願するところである。
(SATO)