Because You Loved Me (Diane Warren, 1996)

 

Celine DionのBecause You Loved Meは、冒頭の副詞句の反復が印象に残る歌である。For+名詞の形を6度反復して、ようやく主文にたどりつくという展開になっている。文頭のFor〜は、主文におけるbe thankfulに対して、その「感謝」を差し向ける先を示すものである。以下が具体的な表現である。

 

For all those times you stood by me 

For all the truth that you made me see 

For all the joy you brought to my life 

For all the wrong that you made right 

For every dream you made come true 

For all the love I found in you 

I'll be forever thankful baby 

 

「あなたがそばにいてくれた時」「気づかせてくれた真実」「もたらしてくれた喜び」「正してくれた過ち」「かなえさせてくれた夢」「あなたの中に見いだした愛」これらすべてに対して、ずっと感謝の気持ちを忘れないと。ここで反復されるFor+名詞は、be thankfulとつながる副詞情報である。

 

副詞情報は位置的な制約がゆるく、形式的に多様であるという特徴がある。まず位置としては、文頭、文尾、そして時に文中で用いることができ、必要に応じて複数使うこともできる。I woke up [early] [in the morning] [in order to get an earlier train].であれば、文尾で3つの副詞情報が使われている。形式的な多様性という点では、単語としての副詞はさておき、2語以上のカタマリで副詞としてはたらく(=副詞チャンクを形成する)場合、そこに核となる副詞が含まれるわけではない。

 

副詞チャンクには、副詞句(ex. to tell you the truth, fankly speaking, in fact. etc.);副詞節(when I was young, if you insist, as far as I know, etc.);慣用表現(ex. believe it or not, what is worse, etc.)がある。これら副詞句・副詞節・慣用表現は、それぞれに固有の形をしている(当然、「句」や「節」としての一般的形特徴は備えているが)。この点、名詞チャンクが核となる名詞を含み([決定詞+(数詞+)(形容詞+)名詞](+後置修飾))、動詞チャンクが核となる動詞を含む(テンス([助動詞+][完了+][進行+][受動+]動詞)のと趣を異にする。

 

歌詞に戻ろう。Because You Loved Meの最初の6行では、For+名詞の副詞チャンクが反復されていたが、そのそれぞれの「名詞」に対して後置修飾の表現が続くために、やや複雑な印象を与えるかもしれない。今ここで、For+名詞+後置修飾という形に注目して、以下、分析的に記してみよう(下線部が後置修飾;□は関係詞またはその省略;φは節中で名詞情報が欠けていることを示す(これは前方に関係代名詞またはその省略がみられる場合に姿を見せる記号)。

 

1.       For all those times□you stood by me

2.       For all the truth that you made me seeφ

3.       For all the joy □ you broughtφto my life

4.       For all the wrong that you madeφright

5.       For every dream □ you madeφcome true

6.       For all the love □ I foundφin you

 

1は、whenまたはthatを補って解釈できる。2.は、“You made me see the truth.”を前提として、その種の「真実」すべてに対して、3は、やはりthatを補って解釈できるが、“You brought the joy to my life.”を前提に、その種の「喜び」べてに対してということ。4は、You made the wrong right.(あなたは私の過ちをた出した)を前提として、その種の「過ち」すべてに対して、5は、You made every dream come trueを前提に、その種の「夢」すべてを、そして、6では、“I found all the love in you.”を前提として、その種の愛すべてに対して、と言っているのであり、これらはすべて次に続くI'll be forever thankful babyの“thankful”の根拠なのである。

 

こうしてみると、副詞チャンクの表現力は圧倒的であることが確認できると思う。センテンスの骨格だけに目を向けるとすれば、I am grateful for …しかないのだが、そのforの(感謝の根拠を示す)部分が、文頭でこれほどの情報量と複雑さを伴って反復されているのである。しかも、そのforに続く名詞チャンクに後置修飾が含まれており、そこには関係詞が使われるものもあれば使われないものもある(リズム的な側面も影響しているかと思われる)。

 

歌詞の後半もみてみよう。ここでは、when節の使い方が特に注目に値する。

 

You were my strength when I was weak

You were my voice when I couldn't speak 

You were my eyes when I couldn't see 

You saw the best there was in me 

Lifted me up when I couldn't reach 

You gave me faith 'coz you believed 

I’m everything I am because you loved me

 

自分が弱ったときには「力」になり、話せないときには「声」なり、見えないときには「目」になり、そして私の中にある最良の部分を見てくれた。手が届かないときには抱き上げてくれた。そして、あなたが信じてくれたから私は信念を抱くことができた。私が今の私でいられるのはあなたが私を愛してくれたから。それぞれのチャンクの最後の語が、weak, speak, see, me, reach, believed, meと/i:/の長母音を含んでいて、耳に残りやすい。そして、strength(strongの名詞形)とweak、voiceとspeak、eyesとseeの対比も巧みである。そういった表現の技巧をこらしながら、when節とbecause節をセンテンスの後半に位置づけることによって、エンドフォーカス的に状況を確認するようなニュアンスがこめられていることも味わえるようにしたい。