「意味づけ論と英語教育」(ALIPS例会発表資料メモより)

 

前提 ~  対話   ~  事態構成  

状況    対話モデル再考        

構成主義 

                 

・・・・・

 

~ 不確定性  ~ 共有感覚

  しなやかさ   語の意味 

  文化差      文法

  国際語      慣用      

  Voice          

 

----- ネットワーク/ナビゲーター/ディスコース

 

①    言語コミュニケーション論の前提

前提1:「人はそれぞれの意味世界に生きる情況内存在である」(人は自らの情況の外に立つことはできない;情況=「今・ここ・わたし」のコンテクスト vs. 状況=「時間に沿って進展するモノ・コトの集合」)

 

前提2:「コトバに意味がある」のではなく、コトバの意味は一人一人が構成する何かである/例)「刑務所って何ですか」(多彩で豊かな意味)→ /人は意味づけから免れることはない;常識は問わない(意味づけの循環性)--- 共有感覚(安定状態)

 

前提3:コトバの意味は情況編成の中で作られる

     動物:環境 → 行動 

   ヒト:意味 → 行動(多様性・文化差)

     ※「生物記号論」「主体性」を程度差で捉え単細胞生物や分子レベルにも主体性を認める。「生の営み」→ AIと「主体」、記号解釈活動。

 

前提4:人は自分が意味づけした意味にしたがって行動する/例)「犬が来た」→ 撫でてあげようor 噛まれたら大変なので逃げよう

  → 構成主義のエピソード(洪水の原因分析と対処行動)

 

前提5:人間はコトバを操りつつ、コトバに縛られる存在である/人間はコトバを操ることで、文化を作り上げる;文化が暗黙の前提になり、思考が自らのコトバ使いに縛られることになる/創造(新たな視点を得てコトバを操る)と慣習 (慣れ親しんだコトバ使い)

  → Edelman Political Language 2大政党制が維持される理由

 

【用語解説】

「コトバ」:刺激としての(意味づけの対象としての)声・文字

「意味づけ」:コトバや状況を理解し、応答を思念する主体の内的プロセス

「状況」:自己と環境について時間と共に推移するモノ・コトの集合

「情況」:主体によって意味づけされた状況

「情況編成」:意味づけという意識作用によって状況を情況として理解するプロセス

 

②「キャッチボールモデル」との対比で「意味づけモデル」を提示し、「意味づけ」のメカニズムについて考察する/キャッチボールモデル(コードモデル):発信者(Encoder)→ メディア・チャンネル → 受信者(Decoder)/コードの共有:言語コード(日本語)と文化コード(文化価値)/コードモデル:コードの共有・メッセージの符号化と解読・コミュニケーションは符号に載せた意味の交換 --- コトバには意味がある・コトバは意味を持つ/キャッチボールの意味づけ:「会話はコトバのキャッチボール」;ボールがコトバで、その遣り取りによって意味を交換する(意味の復元モデル・意味の完全一致モデル

 

会話の定義:情況の協働編成を伴う相互の意味づけに依拠した社会的相互行為/コトバの意味は宛先に依存する;コトバは意味づけのトリガーである;Aのコトバは発せられた途端にAの思いから離れる;AはBの応答によって自分のコトバがどのように意味づけられたかを知る;Bは自らの情況と辻褄の合う意味づけを優先する;BはAのコトバを手がかりに、Aの情況の忖度(推量)を行う/意味づけは「内的プロセス」;意味は意味づけられた結果/意味づけ(Sense-making):素材(記憶) → 変化(内的プロセス)→ 産物(何かの意味(sense))/記憶と意味:意味は誰かによって意味づけられた意味;意味づけは記憶を援用して行われる/言語に関する記憶の総体は「意味知識」;「意味」と「意味知識」の相互関係を媒介する記憶連鎖/「意味づけ(潜在→顕在)」と「概念形成(顕在→潜在)」

 

→ Leo van Lierの「対話モデル批判」再考

 

③事態構成論で捉えるコトバの意味/記憶の関連配置=事態=意味/事態=「~ということ」(例.どういうことかわかった;君のいっていることがわからない)/コトバと事態:コトバへの事態構成(話すこと);コトバからの事態構成(聞くこと)

 

意味の理論:意味づけ論+意味知識論(→ 動画講義「概念形成論1 語彙学習の基礎理論」「概念形成論2 観念対象」も参照)/コトバの意味:引き込み合いによる「記憶連鎖の関連配置」→「構成される事態」(聞き手の「情況内事態」;意味づけた意味)/情況内事態:「事態」とは「情況内事態」であり、発話の意味と発話者の意味が含まれる/発話の意味 --- 内容把握(対象把握を含む);発話者の意味 --- 態度把握・意図把握・表情把握/コトバの意味:{対象把握・内容把握・態度把握・意図把握・表情把握}の融合態が情況内事態/対象把握と内容把握:「彼は今日もまたどんぶりを食べている」--- 対象把握:「丼」の対象は「丼もの(食べ物)」か「容器としての丼」か/内容把握の多様性(隠喩や詩の理解が典型):「君はオフィスのバラだ」→ 多様性・多義性/人は、概して、発話の意味以上に発話者の意味に敏感である → 「電話でなんか元気がなかったな」(表情);「なんであんなことを言ったんだろう?」(意図);「本気で言っているのかな?」(態度)

 

発話者は発話行為において常に表情を帯びている;表情把握は顔、身振り、音調などを手がかりにする/「コトバの意味」:記憶連鎖の関連配置(情況内事態)= 発話の意味と発話者の意味の融合体 ---<対象把握・内容把握・意図把握・態度把握・表情把握>

 

→ 解剖学的コミュニケーション能力論

→ メタファー・メトニミーの相違

→ Albert Merabian (表情55%; 声音38%;文字7%)

 

④意味づけは記憶に起因する不確定性が関与するため意味の復元モデルは原理的にありえない;完全な分かり合いは原理的にあり得ない;他者は完全には届き得ない存在/記憶の非同一性:「猫(ネコ)」→ 癒しの対象(可愛い);苦手の対象(怖い)/「意味」は見たり触ったりできない → 意味の不可視性;完全に共通理解しているか確認する術がない → 意味の確認不能性/第三者も客観的な判断は下せない(「状況」と「コトバ」の意味づけ(情況内事態の構成)を行うほかない)/意味づけの不確定性 → 個人間の「多様性(人によって状況の意味づけは異なる)」;個人内の「多義性(文脈によって状況の意味づけは異なる)」「履歴変容性(時間軸上で意味づけは変化する)」「不可知性(記憶には暗黙知の領域がある)」

 

意味の記憶依存性 → Aの意味とBの意味は原理的に完全には一致しえない(意味の不完全一致性の問題)/記憶と意味づけ:意味づけとは、複雑に絡み合った記憶連鎖の網に展開される辻褄合わせを志向した記憶同士の動態的関係である/辻褄合わせ(主体による意味調整):納得という感覚は辻褄合わせによって生まれる → 不確定性をはらんだ辻褄合わせが種々の物語を創り出す/辻褄あわせの志向性:常識的思考を支える・都合のよい思考を支える → 会話のギクシャク感の要因ともなる/不確定性と絶えざるコミュニケーション:意味が確定できないからこそ、人は絶えずコミュニケーションをする/意味の不確定性を乗り越える意味づけのしなやかさ/不確定性と創造性:不確定性はズレ・ギクシャク感を生むが、アイディア創造のきっかけともなる;慣れ親しんだ意味空間を揺さぶる他者のコトバ/意味づけのしなやかさ:同じ記憶連鎖の集回路を再生するのではなく、新たな記憶連鎖の回路を作ること

 

→ 国際語 vs 外国語;my English (cf. 鈴木孝夫);

正解を一つと思わない;自分のperspective, narrative, storyを語る;

多様性を当たり前と思う・楽しむ

 

⑤意味の共有感覚について/共有感覚についての根本的な問い:意味づけが記憶に依存する以上、記憶に由来する不確定性は避けられない;しかし、意味の共有感覚(共通基盤の共有感覚)がないと会話は成立しない;共通基盤の共有感覚を支える原理は何か/共通基盤の共有感覚が相互理解の共有感覚を支える

 

・文法の共有

・意味内容の共有感覚 --- 例えば「鳥」と聞いて何を連想するか?(意味の共有感覚)--- 典型的な何か:意味内容に関する共有感覚(構造的類似性)--- 鳥らしい鳥の種類{すずめ、つばめ、とんび、鷹、鷲 …ニワトリ、ペンギン};鳥らしい鳥の特徴{空を飛ぶ、羽がある、卵を産む、20センチ前後の大きさ}/概念形成の仕方:鳥の個体を経験(一般化と差異化):「これも鳥、あれも鳥」「これは鳥だが、あれはうさぎ」→ 鳥らしい鳥の特徴抽出(類型(典型)概念の形成)(→「概念形成」に関しては、動画講義「概念形成論1 語彙学習の基礎理論」「概念形成論2 観念対象」を参照)/概念形成の共有の適応範囲:知覚対象となる語彙(名詞、動詞);行動 → 行動のスクリプトは概念形成の結果 ---「電車の乗り方」「学校で生徒としての振る舞い方」「寿司の作り方」「挨拶のしかた」→ 行動のスクリプトが「文化・日常・常識」を機能させる

・語り口の共有:言説の体制化

 

連鎖的伝播:ある表現が使われ個人間で連鎖的に伝播していけば慣用化された表現になる(語り口の共有)/「連鎖的伝播」によって語りの「形」が設えられ、「型」にはめる行為が「仲間意識」「共同体意識」を生み出す/意味の共有感覚を支える原理:文法の事実上の共有(整序装置としての文法論);意味知識の共有感覚(概念形成理論);コトバ使いの共有(言説の体制化論)

 

「英語教育で何を重点的に指導すべきか」への示唆:「文法」「意味」「慣用表現」

                           ネットワーク学習

                            ナビゲータ

                            ディスコース

 

(SATO)