長安十二時辰 | 東京人在上海(上海の東京人)

この夏、中国で公開されたドラマ

『長安十二時辰』全48話。


17話まで見終わりました。

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北米向けのビジュアル、私はこれがお気に入り。

 

中国国内のメインビジュアルはこちら。

 物語の舞台は唐の時代の長安です。


タイトルの『長安十二時辰』、

「長安」は現在の西安、

「十二時辰」は24時間の意味。

 

1回約45分のドラマがほぼリアルタイムで進行し、中国版『24』とも言われていますが、私は『24』というよりも『ボーンアイデンティティ』みたいだなと思いました。


知力・体力共に優れた元軍人の主人公がひたすら不運で気の毒なんです。

 

主人公・張小敬を演じるのはなんと、

『我的前半生』のあの情けない夫・俊生!

全然イメージが違う!

 

もう一人の主役は、「靖安司」という架空の対テロ組織の長官で、若きエリートの李必。神童と呼ばれ、7歳の時から唐の玄宗皇帝に仕えた、実在の人物・李泌がモデルです。
李必を演じる「易烊千璽」は中国の大人気のアイドル(現役の大学生でもある)だそうです。英文名はジャクソン・イー。「易」が名字で「烊千璽」がお名前です。

「易烊千璽(イーヤンチェンシー)」というのは本名だそうです。「烊」は彼の地元の言葉で「ようこそ」という意味があるのだとか。2000年生まれなので「烊(ようこそ)千(ミレニアム)」というご両親の思いが込められたいいお名前ですね。
「璽」は玉で作られた皇帝の印章のことで、皇帝の権力の象徴です。日本語にも天皇の印章を指す「御璽(ぎょじ)」という言葉があります。
 

 

 

李必は高官ですが、役人の服装ではなく、道教の道士の格好をしています。唐の皇室メンバーは老子と同じ李姓なので仏教より道教を重じていました(“先道後仏”)。


ドラマの序盤に登場する女性三人は全員男装です。すごくカッコイイこのコスチュームを含め、衣装デザインは日本人デザイナーの手によるもの。唐三彩の女官俑には男装しているものもあるので、唐の女性は本当にこんな感じだったのかもしれません。



このドラマ、見かけは唐の長安を舞台にした時代劇ですが、ストーリー展開や設定はアメリカのCIAやFBI、警察組織が舞台の映画やドラマを意識して作っています。よって、様々な組織名が出てきます。


唐の組織名、調べました(汗)

 

李必の「靖安司」は数ヶ月前に立ち上がったばかりの対テロ対策組織(架空)ですが、他にも「旅贲队」、「龙武军」、「右骁队」といった組織名(実在)が出てきます。

 


唐の長安には「南衙16衛軍」、「北衙6軍」、「東宮10率」という軍隊がありました。

 

「南衙16衛軍」と「北衙6軍」は、両方とも皇帝の禁軍で、都の南に駐屯しているのが「南衙」、北に駐屯しているのが「北衙」です。


皇帝の住む宮殿は都の北(地図の上部)にあり、

「北衙」は左右3軍ずつ計6軍で皇帝と宮殿を警備し、

「南衙」は左右軍ずつ計16軍で長安の街を守備、防衛(うち4軍は千牛卫(左、右)と览门卫(左、右)と呼ばれ、郭利仕は右览门卫のトップ)、

「東宮」は左右5軍ずつ計10軍の「皇太子」の禁軍です(姚汝はこの一部隊である太子右卫率)。

 

江戸時代の捕物が

八州廻り同心→勘定奉行、

隠密廻り同心→町奉行、

と名称から所属が分かるように、


唐の軍隊も

「右骁队」→長安を防衛する「南衙」の一部隊(ドラマでは右相・林九郎が自由に動かせる部隊)、

「旅贲队」→皇太子が動かせる「東宮軍」の一部隊、

「龙武军」→皇帝の禁軍で「北衙軍」の一部隊

と名称から所属が分かるようです。

 

所属が分かると、対立の構図が見えてきて、少しストーリーが理解しやすくなりました。

 

主人公・張小敬は西域での激戦から生還し、長安の万年県で「不良帅」になります。凄腕の「不良帅」として、犯罪者から恐れられていました。


長安には犯罪調査や犯人逮捕、治安維持を担当する「不良人」という下級役人がいて、街の治安維持から犯罪組織に潜るアンダーカバーまで様々な役割があり、NYで言うところのNY市警の警察官です。「不良人」の隊長が「不良帅」なので、張小敬は万年県という分署の警部といったところでしょうか。


長安は漢時代に作られた街を基礎に発展し、唐時代には京兆府という「府(行政単位)」の下に置かれていました。京兆「府」の下に長安や万年という22の「県」があり、京兆府の役所は長安にありました。そして、京兆府の行政長官を京兆尹といいました。ドラマでは靖安司は京兆府の役所の隣にあるという設定です(京都府庁の隣に京都府警があるみたいな感じ?)。


長安の街は朱雀大路を挟んで西が長安県、東が万年県に分かれていだそうです(京兆府が京都市だとすると、長安県と万年県は上京区と下京区みたいな感じ?)。


清の都だった北京は“東富西貴”の街割ですが、長安は“西富東貴”、すなわち都の西に国際マーケット、東に貴族の屋敷がありました。長安の西にシルクロードがあって、西門から貿易品が入ってくるというのがその理由でしょう。序盤に張小敬が重要な証拠を掴む「平康坊」という妓楼街は長安の東にありました。なぜ貴族の屋敷が集まるところに妓楼街があったかというと、明治の元勲の待合政治のように、高官は妓楼で密談をしてたんですね。初めて長安に来る商人なんかも、まずは妓楼に揚がって妓女に長安の街のしきたりや道案内を頼むのだそうです。妓楼には様々な役割があったんですね。



ドラマの中に“大案牍术”というのが出てきます。これは長安という街の全てを数字化したデータベースです(架空)。


アメリカのドラマで銀行資産の動きやクレジットカードやメトロカードの使用履歴から犯人の行動が分かったりしますが、それと役割は同じ。

 

例えば、「役人Xの収入はいくらいくらだが、安い銘柄の○という酒しか購入しない」という個人消費データや「○月○日に○○という会社が商品を○○個、○○門から長安の街に入れた」という商取引データ、車輛ナンバーならぬ馬車の特徴が記録されたデータが街から上がってきて、それらを全て文書にして記録・保管し、犯人特定に役立てる、という設定です。もちろんコンピュータなんかありませんから、データは毎日手動(紙と筆)で更新ですw

 

このデータベースはもちろん架空の存在ですが、あらゆる文書記録が大量に残ってる中国なら、こんなものもありそうと思えてしまうところがミソ。

 

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このデータベースを作ったのはこの方、徐賓さんです。下級役人なんですが、どの文書がどこにあるかとか、かつてどういう事件があったとか、全部覚えている、記憶力抜群な方です。

李必に「お前とはいつどこで知り合ったのだったか?」と聞かれて、

「○年の○月、時間は○時、○という場所です」と答えています。


こんな人いたら、ちょっと怖い。まあ、この出会いには裏があるようですが。

 

また、この方はあらゆるデータを文書として残すことに心血を注いでいます。

文書が書かれる墨や紙の品質にまでこだわり、最適なものを私財を投入してまで開発するすごい人なんです。

 

徐賓さんのやってることは、中国の大学にあったという「檔案学部」そのまんまですね。


中国には昔、「檔案」という人民の個人データ(戸籍書類&履歴書)記録した文書がありました(多分、今もありますね)。

また、国に関するあらゆる記録文書を「檔案館」という施設に保管していました。今は電子化してるでしょうが、コンピュータのない時代、どのようなインクや紙を用いて文字を記録するかというのは大事な学問で、効率的な保管法やデータ処理法などと併せて研究し、学ぶのが大学の檔案学部でした。私も噂でしか聞いたことがないのでよく知りませんが、90年代前半くらいまではあったようです。
 
疲れたので、今日はここまで。
また追記します☆
 
こんな長文を読む人はあまりいないと思いますが、自分の備忘録代わりに更新していきます。