山本七平氏による『「空気」の研究』によると、「物質から何らかの心理的・宗教的影響をうける、言いかえれば物質の背後に何かが臨在していると感じ、知らず知らずのうちにその何かの影響を受けるという状態」を「臨在感的把握」と呼び、これを「空気の基本型」としている。
そして山本七平氏の『「空気」の研究』やかつての日本の敗戦を振り返り、日本軍の組織論的研究として戸部良一氏や野中郁次郎氏をはじめとする著者が発表した『失敗の本質』などの著書に精通する鈴木博毅氏によると空気の醸成には、4つのポイントがあるようだ。
鈴木博毅氏の著書『「超」入門 失敗の本質』によると空気により方向転換を妨げる要素として次の4つのものがあげられている。
1.すでに多くの犠牲がある。
=いわゆるサンク・コストである。埋没費用。これまでこれだけのお金、労力、人命をかけてきたのだから、この道が間違っていては困るとして更なる誤った道を突き進む心理状態。
2.未解決の心理的苦しさ
=人間は答えの出ていない状態は不安定で耐え難いもの。鈴木氏によると『合意後は「今さら蒸し返すな」という気分になる』という。
3.誤った人事評価制度
= 鈴木氏によると「愚かな判断を罰せず、指摘を無視できる状況では暴走する」とある。
おそらくこれが最も恐いと筆者は判断する。会社組織では、降格やリストラなどの人事評価制度であるが、これが民主主義の枠からはみ出し、国家レベルでの暴走になると国民の生命を左右できる権力を国家が握ることになり、ファシズム的な思想になる(第二次世界大戦前のドイツが民主的な選挙からヒトラー率いるファシズム思想を持つ党を当選させ、ファシズムに、そして世界史に残る惨劇に突き進んでいったことは周知の通り)。そうなるともう誰も口出しできない。
改憲の議論が活発化して久しいが「権力者に国民が足枷(あしかせ)を課して我々国民が管理、観察できるようにしている仕組み」が現在の日本国憲法であり、改憲はこの権力者の足にかけた枷(かせ)を外す権利を時の権力者に与える可能性があることを我々は肝に銘じるべきだ。
4.幻想の共有
=鈴木氏によると「安全性や採算性より、関係性に配慮するグループ・シンク(集団浅慮)に陥る」。
鈴木によるとこれは以下の二つを誘発する。
「・都合の悪い情報を封殺して無視する」
「・希望的観測に心理的に依存していく」
※この4つのポイントについては、「鈴木氏によると」との但し書きがない部分についてはこのblogの筆者のペネトレによる解説です。
以上、4つのポイントから、空気は醸成される。鈴木氏によると『「空気」=「ここで"それは検討しません"という暗黙の了解」と解釈すると、わかりやすいと思います。』とのこと。
先立って日大アメフト部の件について投稿したが、この問題についても「監督の指示についてはその是非を検討しません」とする空気は特に3と4によって醸成されていたことが分かる。
内田元監督は日大のNo.2の地位にあり、選手の評価はおろか学生としての評価にさえ、権力をふるえたと考えても不思議はない。そして4のように人生がかかっている選手、生徒にとっては内田元監督との関係性を重視せざるを得ない状況を強いられており、事実上、内田元監督に逆らう事は不可能だったと考えられる。逆らうとチームからの追放はおろか、大学にさえ、居られなくなる可能性を秘めていたのではなかろうか?
空気は日本人特有のものではないが、日本人は同調圧力に弱く、世界的なジョークとして沈没する船から日本人を海上へ飛び込ませたければ「皆もう飛び込みましたよ!さあ、あなたも!」と誘導すれば良いと揶揄されるほどである。
どんなに情報化社会になろうと、同調圧力に弱い日本人はかつての敗戦の道を歩んだ文字通り「失敗の本質」を未だに抱えていると筆者は考える。
改憲をはじめとする大切な国民的議論はもちろん、我々の身近な会社組織での会議などについてもこの「空気」の醸成について、今一度、思いを馳せる必要性を私は感じる。
参考文献:
山本七平 『「空気」の研究』文春文庫 1983年
鈴木博毅 『「空気」を変えて思いどおりに人を動かす方法』マガジンハウス 2013年
鈴木博毅 『「超」入門 失敗の本質』ダイヤモンド社 2012年