小泉政権の時代に日本はアメリカのイラク攻撃をいちはやく支持しました。
そしてその後、この戦争は誤りであった、つまり大義のないものであった、ということが明らかになった。当のブッシュ前大統領が、事実上、この戦争の誤りを認めました。
イギリスでは、最近になって、改めて、どうしてイギリスがその誤った戦争を支持したのかを検証する委員会が議会に設置されました。
では日本はどうなのか。
もう誰もイラク戦争などなかったかのような顔をしています。遠い昔のことになった。
しかしこれは決して忘れていいことではありません。
イラク戦争の意味を論じることは、例えばイスラム諸国の民主化の可能性、というたいへんに大きなテーマにかかわります。
それは今回のエジプト、リビアなどの騒動の解釈にもかかわってくるでしょう。
また、イラク攻撃のアメリカ支持を論じることは、端的に、日米関係を論じることになります。
日米関係を論じることは日本の安全保障問題に直結してくる。これらはいずれも日本の外交の基本を再考することになるのです。
だから、この健忘症のおかげで、我々は日本の外交や安全保障についてのもっとも基本的な論点を論議する機会を失ってしまった。
もっといえば、政治家もメディアも評論家たちも、そんな面倒な議論などしたくなかったようにも見えます。そのために忘れることにしたようにさえ見えるのです。
『日本の宿命』 佐伯啓思