ミスターサマータイムが流れていた。

ホテルのロビー。

大きく切られたガラス窓の外に強く降る雨を見ながらjはそれを口ずさんだ。

 

ミスターサマータイム 探さないで

あの頃の私を

ミスターサマータイム あの夏の日

つぐなえる何かが欲しい・・・

 

歌いながらj。

そんな大人の恋がしたいって思った。

全てが純粋でなくていい。私はもう高校生ではないから。

洗いたての真っ白なTシャツのような恋ではなく、現実社会の中で生きるために解決しなければならない多くの問題を含む恋。うまく言えないけど、そう。

大人の恋がしたい。彼女はそう思った。

でも・・・。現実は違った。私の生きている現在(いま)は、雨が降れば優しい父親が車で迎えに来てくれる。彼女は未だに優しい父親が作る庇の下で生きていたのだ。

それが彼女を取り巻く現実(いま)だった。

大人への入り口。

流れる曲は、ミスターサマータイムから「ヒーロー」に変わっていた。

 

 

 

ヒーロー。

 

そしてその夜。

ロイヤルホテルのフロントに現れたヒーローは、父親だった。

父親はフロントの自動ドアを通り抜けるとすぐに彼女を見つけ出した。

でも、父親が真っ先に声をかけた相手は彼女ではなかった。

「よぉ、GINクンじゃないか。久しぶり」。

jは驚いた。さっきからちょっとだけど気になっていた隣の男の子たち。

その男の子の一人に父親は笑顔で手を振っているのだ。

男の子はさっと立ち上がって、父親に会釈をした。

師弟関係。

誰が見てもすぐにわかる二人の関係。男の子は父親に近づき、再度頭を下げた。

「久しぶりです」。

jはその日、何かが動く気配を感じた。

それは強い雨の夜にプレゼントされた奇跡という名の出来事だった。

数分後。雨の中を走りだす父が運転する車に、GINクンという男の子も乗っていた。