学生時代。

下宿で一人暮らしをしていて、一番切ないのが風邪をひいた時だった。

熱が出て、動くのも「やだ」という時。

フラフラして、ご飯すら食べられる状態でなくなったような時には、「あ~、もしかしたらボクはこのまま知らない世界に行ってしまうのかもしれないなぁ」。なんて思うこともあった。


若林で見た空


そう言えば、子どもの頃は「往診」というのがあって、病院の先生が家まで診にきてくれた。

とても親切なシステムだった。でも・・・。

大学生になって、下宿暮らしをしてからは流石に往診に来てもらうなんてことは望めなかった。

だから風邪をひいた時は。

ひたすら治るまで布団の中で静かに寝ていた。

汗でベッタリになった服を自分で着替え。

柚子湯を飲んだり。

レモン湯を飲んだり。

ホットミルクのウイスキー割り砂糖入りを飲んだりして、回復を待った。

四畳半の部屋の真ん中に布団を敷いて、ゴホゴホ耐える大学生。

当時それは。よくある光景だった。


数日欠席が続くと、さすがに不審に思った友達が部屋を覗きに来てくれた。

トントン。部屋のドアをノックする音。そして、友だちがドカドカってやって来る。

「おい、GIN。大丈夫か。」

その言葉が嬉しかった。

それがたとえ、ひげボーボーの男から発せられた言葉だとしても、嬉しくて涙がでた。

ひげボーボーが、天使にさえ見えた。

ひげの優しさが胸にしみて、ボクはむせび泣いた。

涙と鼻水が混ざり合って、顔がズビズビになった。

「GIN、アイスクリーム買ってきてやったぞ。」

なんて、ひげボーボーが紙袋からバニラアイスカップ入りを取り出してくれた。

バルサ材のような木でできたスプーンで、ちょっとずつそれをすくい、ほおばると、風邪はどこかに吹っ飛んでいきそうな感じがした・・・。