学生時代アルバイトをしていた、渋谷のインド紅茶専門店ボルツには、いろんな紅茶があった。
ロイヤルミルクティー。
インディアンミルクティー。
ロシアンティー。
シナモンティー。
皆、おいしかった。
中でも、シナモンティーが好きだった。
シナモン。
子どもの頃からの憧れだった。
ただし、ボクが子どもの頃はシナモンなんて洒落た呼び方をしていなかった。
「ニッキ」と呼んでいた。
ニッキの枝は、駄菓子屋さんで売られていた(ような気がする)。
縁日の屋台でも売られていた(ような気がする)。
とにかく、この不思議に魅力的なニッキの枝の香りをかいで、ボクらアホな子どもはウットリとしていたのだ。
シナモンティー。その憧れのニッキの枝を、紅茶の中に入れた。
シナモンの粉末をさらっと入れた上に、枝もカップに投入するのだ。
ボクは、休憩時間はそのシナモンティーを飲みながら時を過ごした。
暑い夏。
下宿にはないクーラーに、バイトをしている間は当たることができる。
ありがたい。
だから、夏休み中はできるだけバイトに入ることにしていた。
その時の時給。今でもちゃんと覚えている。
480円。
それでも、学生にとってはとてもありがたいお金だった。