子どもの頃。

おもちゃの動力はゼンマイだった。

ゼンマイを、「もうこれ以上回りません」ってところまでガリガリって回し。

手をはなす。

すると、ボクの愛すべき鉄人28号はガーって音を立てて動いた。

ブリキのおもちゃ。

かわいく動くゼンマイじかけの車やロボットは、おもちゃ界のファーストランナーだった。

そして・・・、その後。

モーターが子どものおもちゃに導入される。

それはある意味、画期的な出来事だった。


若林で見た空


小学生中学年の頃。

ボクの学校で始まった、「動くおもちゃコンクール」。

自分たちでおもちゃを作り、それを動かしてその動きや美しさを競う行事だった。

夏は水上の部、冬は陸上の部に分けられて、年に2度行われる動くおもちゃコンクール。

ボクら勉強のできないアホな男子はこのコンクールに燃えた。

でたらめな人○つクンはこの「動くおもちゃコンクール」で、巨大な段ボールの船造りに挑んだ。

ボクら一般庶民がバルサ材や角材でちまちま船を造る中、タンカーのような巨大な船を作る○つクン。

彼は最後に、ちっちゃなモーターを船につけ、動く巨大艦船「○つ号」を完成させた。

○つクンの造った船の画期的にいけているところは、人間が乗れるというところだった。

コンクール前日。プールに船を浮かべ、○つクンは最終チェックを行った。


洋々とプール上に浮かぶ○つ号。そして、モーターを回す。それが動力になったかどうかは不明だけど、ちょっとずつプール中央に船は進んだ。

ご自分で船に乗り込んだ○つクンはかっちょよかった。

その勇資に、周囲からは「ほーっ」というため息が盛れた。

まるで若大将だった。プールに浮かぶ若大将。ボクらの瞳には、☆がキラキラと瞬いた。


でも・・・、事件はその時起こった。

見事プール中央付近に「○つ号」がたどり着いたとき、船が大きく揺れたのだ。

長い航海の末、段ボールが水を吸い込み、徐々に徐々に船の浮力が失われていたようだ。

「あわわわわわわ」○つクンは不気味な叫び声をあげた。

「ひゃぁーっ」ボクらギャラリーからも、大きな悲鳴が上がる。

船の上でもんどりうつ○つクン。

固唾を飲んでそれを見守る、アホな男子集団。

そのわずか数秒後、○つクンは撃沈した。撃沈してプールのモズク・・・じゃなかった、藻屑となった。

皆は泣いた。プールに沈み、泡がブクブクと浮かび上がる水面を見つめ、ボクらはむせび泣いた。

○つ君の船はその後、動くおもちゃというよりも、沈むおもちゃとして伝説となり、後世に語り継がれるようになった。

ゼンマイからモーターへ。子どものおもちゃや遊びは日々変化した。

ボクらは、その変化をちゃ~んと受け止め、遊びを進化させていった・・・。


先日、世界の果てまでいってQという番組で、イタリアのお祭りが映し出された。

激流の川を、段ボールの船で突き進むというレース。ボクはその中にもしかしたら○つクンがいるかもしれないって、画面を凝視したけど。

残念ながら彼の姿は見当たらなかった。