大学を卒業して旅行会社に勤め始めたボクは、毎日忙しい日々を送っていた。

営業も、添乗も初めての経験だったから、戸惑うことが多かった。

その年、東京ディズニーランドが開園した。一般入場者を出迎える前に、旅行社の人間が呼ばれ、アトラクションなどの説明会があった。

「お前も行ってこい。」所長にそう言われて、ボクも出かけた。

4月に入ってすぐのことだった。東京(実際は千葉だけど)に行けると思ったら、なんだかそれだけで心がときめいた。


若林で見た空


勤め始めて数日後、営業所の鍵を所長にもらった。所長が言った。

「お前、一番の下っ端だから。一番最初に来て鍵を開けて、最後まで残って鍵を閉めていけ。」

なるほどなぁ。こういうのを社会っていうんだ。

そう思いながら、ボクは指示に従った。

数日後。

彼女から電話があった。忙しくて忙しくて目が回るって言った。

でも、その声は明るかった。

「Aおちゃんが写真を送ってくれたから、君にも手紙で送るね。」

ボクがそう言うと、彼女はその必要はないと言った。

「私が取りに行く。」

「仕事休みの日に、静岡に行くから。GINクン、写真持っていて。」

彼女はそう続けた。

そうか。あの時確かに静波で見た海は、「悲しい色やね」だったけど。

だからと言って、新たに始まったボクらの暮らしは、ボクらの心の中にある繋がりを切るまでには至らなかったのだ。

静岡と東京。ボクらは離れてしまったけど。

同じ時間。同じ地球という惑星の上で、同じ空気を吸いながらボクらは頑張っている。

そう思うと元気がでた。

悲しい色の季節を、こうしてボクらは一人ひとり自分の場所で、懸命に乗り切ろうと。

歩き出した・・・。



PS.

そしてボクは、その年のクリスマス。

彼女に、「馬面でたれ目のミッキーマウス」を贈ることになった。

http://ameblo.jp/pen-ginchan/entry-11538641394.html

長い長いお話を読んでくださって、本当にありがとうございました。


FIN.