東京の下宿から静岡に戻る、引越しの日。

ボクと彼女とAお島クンの3人で、トラックへ荷物を運んだ。

学生時代の荷物なんてたかがしてれていたから、それらを積み込むのに時間なんてかからなかった。

Aお島クンが、素早く動く。

彼の思いやりだった。ここで時間をかけたら、辛い思いが強くなる。

短時間で、荷積みをすませ、トラックに3人で乗り込んだ方がいい。

きっと彼はそうしたいって思ってくれていた。


若林で見た空


彼女は、一つひとつの荷物をゆっくりと運んだ。

ちっちゃなテレビ。

「ずっとずっと一緒に見たよね。」

語りかけるようにテレビを抱え込み、彼女は荷造りをした。

プラグコードを丁寧に巻き、テレビにガムテープで固定する。

そこに何かが宿っている。ボクにはそう感じてならなかった。

最後のちっちゃな冷蔵庫をトラックに積み込むと。

Aお島クンが、カメラを取り出した。

「この部屋で写す最後の、写真だよ。さぁ、笑って笑って。」

二人で笑った写真を撮った。

「次はオレも入れろ」。カメラをセルフタイマーにすると、彼が中心となって右手を天に向け、人差し指で空を指差すポーズを取って、ボクらは写真に納まった。

カメラが、自分でカシャっと鳴った。

撮影後。3人とも笑顔になった。

「さぁ、出かけるよ。」

ボクとAお島クンが立ち上がった。

その瞬間。彼女が突然、声をあげて泣き出した。

「いや。」

「私はこの部屋から出ない。」

「この部屋でずっとずっとGINクンが帰ってくるのを待ち続ける。」

そう言って、嗚咽した。

わずか数分の出来事だった。

でも、Aお島くんがちゃんと彼女の肩を叩いてこう言ってくれた。

「大丈夫だよ。GINは、どこにもいなくならない。Yちゃん、心配しなくていいよ。」

その言葉を聴いて、彼女は立ち上がった。

「ごめんね。Aおちゃん。GINクン。もうわがまま言わない。」

そう言うと、彼女もトラックに乗り込んだ。

静岡まで、一緒に行くと彼女は言った。

Aお島クンは、ちゃんと3人が座れるトラックを借りてきてくれたのだ。

ボクはその日。

「若林」に別れを告げた。

トラックは、環七から246に入り、用賀から首都高に乗った。