蚊取り線香と言えば、ブタの置物だった。

貯金箱と同じくらい、蚊取り線香はブタだった。

陶器でできたブタの蚊取り線香入れがとてもかわいかった。

蚊取り線香を投入し、そこに火をつけると、ブタの目と口から煙がプカプカと上がった。

その煙がボクらをあのにっくき蚊から守ってくれた。


若林で見た空


夕方。

母親が蚊取り線香に火をつけて、畳の部屋に置いてくれた。

煙を吐くブタ。

いったい誰がこのブタを考えたのだろう。

そして、どうやってこのブタは日本中に広まったのだろう。ナゾだ。

たぶん始めてこのブタを考案した人はまさかその後、日本中に自分が考案したブタが普く行渡るとは、夢にも思っていなかっただろうね。

日本中ブタだらけ。

しかも、貯金箱もブタだから。まさにそれはもう「ブタ天国」、略して「ブタ天」。

昭和の日本はこうして、愛すべきブタに満ち溢れていた。

ボクはというと。

ブタが目と口から煙をプカプカ吐く横で、母親が切ってくれた大きなスイカの欠片を口いっぱい広げて、ほうばっていた・・・。