シーン2 夢を見たくなった・・・。

BGM シャカタク ナイトバーズ

http://www.youtube.com/watch?v=AcAH79hE3kM


静岡の町の片隅にあるお店、「BOZZ」。

それは、ボクらサラリーマンが行きつけのワンショットパブだった。

携帯のない時代。互いに連絡を取り合うのが難しい時代だったけど、そこに行けば仲間に会える。

心許せるその場所は、ボクらにとって、かけがえのない空間だった。

ボクは「BOZZ」でいつもNか村クンと酒を飲んだ。最後はマルガリータ。二人でそれを飲んでは、帰宅した。

サラリーマン。仕事疲れを取り払うように、ボクらはいつでもカクテルをそこで飲み続けた。

その日。東京にある鉄鋼関連の会社を辞めたというAお島クンが、彼女を連れて参戦した。

彼女の名は、E。大学時代から仲良しだったから、会えばすぐにボクらの話は弾んだ。


若林で見た空


鉄冷えという言葉がマスコミに流れ、久しい時だった。それでもAお島クンはその業界に就職した。

就職して、長い間会社に尽くし、でも向上しない業界の立ち居地に苦しんでいた。そして彼は、会社に辞表を出した。

「夢を見たくなった。」堅実なAお島クンらしからぬ言葉だった。

「夢を見たくなって、辞表を提出した。」

ボクは思わずEに聞いた。

「大丈夫なの?Aお島もキミも・・・。」その問いに、Eはすかさずこう答えた。

「この人がやりたいことをやらせたい。」

Eは大手銀行に勤めていた。お堅い考え方をして当たり前だ。会社を辞めて、独り立ちすることがどれだけ冒険なのか。一番わかる仕事じゃないか、金融関係なら。その彼女が、Aお島クンに夢を叶えさせたいって。

ボクもNか村君も、それ以上の言葉が出なかった。


「バーボンをストレートで下さい。チェイサーもつけて。」酒豪のAお島クン。

もしかしたら今日は、とことん飲むつもりなのかもしれない。

いいよ。だったら付き合う。

そんな空気がさらっと長いカウンターのテーブルの上を流れる。今日ボクはもしかしたら、つぶれるまで飲むのかもしれない。そんな風に思っていたところに、BOZZのドアが開いた。

今度はNか村君の彼女が入ってきた。

久しぶりに5人が揃った。そして、ボクらはAお島クンの夢の話を聞いた。

「どうせGIN、明日は休みだろう。酔いつぶれたら、どちらかの彼女が面倒を見てくれるから心配するな。」

Aお島クンがそう言った。やれやれ。

ボクら5人。今日はみんなで酔いつぶれなければいけないみたいだ。