シーン2 最後はマルガリータ。

BGM シャカタク「Invitations」

http://www.youtube.com/watch?v=kC5Ui-LkBwY


「BOZZ」。

静岡の町はずれにあった、ワンショットパブ。

ボクらは、仕事を終えるといつもそこに集まった。

会社は違うけど。

そこに行くと、かなり高い確率で、サルに似たNか村クンに会えた。

携帯がない時代だったから、連絡は取り合えない。

だから、仕事を終えると、取りあえずボクはそこに向かった、いつでも。

その日・・。

いつものようにNか村クンは酒を飲んでいた。

ボクは彼の隣に座ると、ビールを注文した。


若林で見た空


Nか村クンは、こう言った。

「GINクン。Aお島クンがもうすぐ来るよ。」

Aお島クン。カバに似たAお島クンは東京で鉄鋼関連の会社に就職した。

忙しくてなかなか会えない・・・。お互いそうぼやき合う仲だった。

そのAお島クンがこの店に来る。

「珍しいね。里帰りかい。」ボクがそう聞くと、サルに似たNか村クンは首を横に振った。

「いいや、そうじゃない。彼、仕事を辞めたみたいなんだ。」

ボクは驚いた。堅実で、冒険をしないAお島クン。

ディズニーランドでデートをするときは、前の週に一人で下見に行ってしまうAお島クンが、会社を辞めた?

にわかにそれは信じがたいお話だった。

「プログラマーとして、独立するみたいだ。今日、ボクの会社に彼から電話があった。」


Aお島クンが独立?

1986年。甲斐バンドが解散した年だ。

会社を辞めて、プログラマーとして一人で仕事を始める。

およそそれは、Aお島クンらしからぬ決断だった。

カウンターで。二人並んで酒を飲みながら、そんな話をした。

サルもカッパも、次第にヨッパライ、そろそろ眠くなったなぁって思った頃。

「BOZZ」のドアが開いた。

ドアを開けたのは、Aお島クンだった。メタファ・・・。

彼は、20代後半。新たなドアを開けようとしていたのだ。

見ると、Aお島クンは彼女を連れていた。

「久しぶり」。Nか村クンは、Aお島クンにそう言った。

Aお島クンが、ボクの隣に座る。その瞬間。彼から、東京の匂いを感じた。