え~、今日は。
え~、皆さんに聞いていただきたい話があります。
え~、それは何かというと、え~、「え~」についてです。
学生時代。
言葉を発する前に必ず、「え~」をつける先生がいた。
生物のAんどう先生だ。
彼のニックネームはミトコンドリア。
顔の顔がミトコンドリアに似ていたから。
というのはウソ。彼のあだ名は先輩からずっとずっと引き継がれたものだから、その由来についてはもはや知る者はいなかった。
その、Aんどう先生。
いつでもどこでも、「え~」を連発した。
彼の授業ではまさに、「え~」がマシンガンのように飛び交ったのである。
「え~、ミトコンドリアは細胞の中で吸収をして、え~エネルギーを生産しています。え~、我々が肺から吸い込んだ酸素は、え~血液によって運ばれますえ~」というような具合。
当然。
そうした場合、ボクら頭の悪い高校生はその「え~」が気になり始める。
気になって気になって、何回言うか数え始めたくなる。
そしてその後。ボクらは毎時間。
Aんどう先生が何回「え~」を言ったかを数え続け、それを表にし、グラフ化するようになった。
Aお島クンは、こうした場合、折れ線グラフがいいんじゃないかって言った。
なるほど。日々の変化を探るためには、折れ線グラフがわかりやすいだろう。
ということになった。
Aお島クンはその後。
各曜日ごとにおける「え~」の数がどのように変化するかを分析した。
「彼のえ~にはもしかしたら、ある種の法則性があるかもしれない。」
そう言って彼は「Aんどう先生のえ~と他者によるあ~からなる相違によるクラスター分析」を試みた。
バカである。
受験勉強もそっちのけで、「え~」を数えるボクら勉強のできない高校生の毎日は。
そのようにして、呑気に送られていた。