いいジャズバーがあるよ。
そう聞いて、横浜まで車を走らせたのは一昨年の冬のことだった。
ホテルニューグランドの駐車場に車を入れて。
ボクは一人、タクシーでお店に向かった。
ライブで演奏されるジャズを聴きながら、ウイスキーを飲む。
そこは大人の空間だった。
スタンダードを数曲聴き。
バーボンのストレートとチェーサーを代わる代わる飲んでいるうちに、酔いが回る。
そして、この曲「Autumn Leaves」の演奏が始まった時。
http://www.youtube.com/watch?v=mRhVI7cpcS4
ボクは昔仲の良かった女性のことを思い出した。
ヨーコだ。
軽音楽部に所属し、ギターの練習に夢中になっていた頃。ヨーコは同じ部活で、キーボードを叩いていた。彼女と二人で演奏。大切な時間。
宝物のような時間をボクらは過ごした。
あの頃。
ブルーノートスケールをギターで毎日練習していたボクの左手には、豆ができていた。
コンパウンドの柔らかな弦でも豆はできる。
その豆を触りながら彼女はいつでもこう言った。
「よく、頑張りました」。
くすっと笑う彼女。髪の毛が素敵だった。細く長い髪の毛が、風でさらさら揺れていた。
「Autumn Leaves」
ある秋の日に、静岡に遊びに来ていたヨーコと二人で県立図書館の雑木林を歩いた時に。
落ち葉を踏みしめる音を聞いた。
キュッキュッ。キュッキュッ。
「ねぇ。ほら、この音を聞いて。フォービートだよ。」
そう言いながら落ち葉を踏みしめる彼女。
風のように、透き通った笑顔のままボクの思い出に今でも残るヨーコ。
「Autumn Leaves」の演奏で蘇った彼女の笑顔は。
その演奏が終了したと同時に、ボクの心の中でフェードアウトしていった。