ちっちゃな頃。
30円のチョコレートを買うと、お菓子屋さんのおばちゃんは必ず、「はい、30万円ね」と言った。
「30万円は持ってないので、今日のところは30円にして下さい」とボクがいうと、おばちゃんはそのチョコレートを30円にまけてくれた。
優しいおばちゃんだった。ボク、お煎餅も持っていきなと言っては、バラ売りの煎餅を2枚くらいくれた。
なかなかできたおばちゃんだった。
人心を倦まざらしめんおばちゃんだった。
M町商店街。
肉屋さん、八百屋さん、魚屋さん、乾物屋さんに化粧品屋さん。
なんでも揃っていた商店街の買い物には人情があった。
お遣いに行かされても、なんだかワクワクした。「えらいね、ボク」なんて声をかけられた。
ところが今の買い物は全然違う。
スーパーやコンビニに、30万円のチョコレートは置いていない。
ボク、これを持っていきなの、バラ売り煎餅も置いてない。
店員さんは、マニュアルにのっとった商業的笑顔を浮かべるけど、そこに親近感はない。
深夜までやっているコンビニ。24時間営業のドラッグストア。
確かに便利になったけど、昔の方がずっとよかった。
ボクはそう思う。30万円のチョコレートのおばちゃんは、今頃天国でお菓子を売っているのだろうか。