Nについて言うと。
悲劇の数は計り知れない。
ボクは、Nの友だちで本当によかったと思う。だって、すごく楽しませてもらったから。
Nの悲劇。
その中の一つを今日は紹介する。
Nとは言わずと知れた、サルに似たNか村クンのこと。今回紹介する、サルに似たNか村クンに降りかかったその悲劇は、大学時代のもの。ただしこの話、まともに書くとちょっと長くなるから、簡潔にするために最初の部分。ちょっとはしょって書くね。
ボクの友だちにもう一人、カバに似たAお島クンという男がいた。彼は、女子にモテナイ人生を繰り返し、幾度となく失恋を経験していた男である。
高校時代も、大学時代も。彼の大量消費大量生産、高度経済成長的失恋のたびに、ボクらは彼の心を癒すお手伝いをさせられた。ボクとサルに似たNか村クン、ゾウに似たI沢クンがその被害者。いつも、いつの時でも、ボクらはカバをかばい続けた。
カバに似たAお島クンが遭遇したある一つの失恋を癒すために、ボクら動物仲間は鎌倉に行ったことがある。それは、ずっと前のブログにも書いたことだけど、失恋したカバの悲嘆を大きく上回る「Nの悲劇」はそこで起こった。
4人で江ノ電に乗っていた時のこと。
当時の江ノ電は、座席が車両の内側に向いて一列、ちょうどお客さんが向かい合うように置かれていた。その日の江ノ電は混んでいて、座席はお客さんでいっぱいだった。だからボクらは皆、立ったままつり革につかまっていた。事件はそこで発生した。
ガタン。
それは、なんだか電車が大きく揺れたなと思った瞬間の出来事だった。
サルに似たNか村クンのつり革につかまる手がツルンと外れた。そして、サルに似たNか村クンは前のめりになって倒れた。
転ばぬよう。そう、自分の身を守るために彼は、あわててどこかに手をつこうとしたのだけど、残念なことに彼の目の前にあったのはオジサンの頭だけだった。Nか村クンは、オジサンの頭に手をついた。
その時。ピチャンという音が電車の中全体に響き渡った。
とても残念なことに、そのオジサンの頭のおぐしは、失われた草原だったのだ。
だから、すごくいい音がピチャンとなってしまった。つまり結果的に言うと、サルは座席に座っているオジサンのハゲ頭を思い切り叩いてしまったことになる。いや、間違いなく叩いたのだ。
叩かれたおじさんの頭には、サルの手の跡が、秋の紅葉のように美しく残った。
その瞬間。空気が凍った。
空気が凍るとは、こういうことなのだということを、サルはボクらにまざまざと見せ付けてくれた。
失恋に悲しむカバも、この時ばかりは顔が紅潮した。
こらえていたのだ。周囲を見渡すと、皆こらえていた。その中にあって、サルとハゲ頭だけは、硬直したこの事態をどう収拾するか。頭の中をDVDのように高速回転させているように見えた。
ボクらは、すぐ次の駅で下車した。いてもたってもいられなくなったのだ。
サルは、そういう男である。
彼に降りかかった悲劇は、この件について言えば、氷山の一角。Nは悲劇をその後もずっとずっと量産している。