「今度の遠足は、トレパンをはいて来てクダサイ」先生がそう言うと、ボクらは「はい」と答えた。
「あなた」と呼べば、「なんだい」と答えるように、ボクらは疑いもなく、先生のトレパン指示に「はい」と元気よく返事をした。
ところでトレパン。なくなっちゃったね。
綿でできた白のトレパンは、遠足の時も、スポーツテストの時も、陸上競技大会の時も、いつでもはかされた。
だって。ジャージなかったから。
いやいやあったかもしれないけど、今みたいにジャージが市民権を得ていなかった。
だから、ジャージより、トレパンの方がずっとずっとメジャーだったのだ。
しかも。驚いたことに、このトレパンにはベルボトム(ラッパズボン)があった。
当時のトレンドはベルボトムのジーンズ。ガロという3人組がはいていた、すそが富士山型に広がっていたジーンズは、若者に大人気だった。
だから若者は、学生服のズボンも、白のトレパンも、みんなみんなベルボトムにして欲しいと考えていた。そのニーズに、業者はちゃんと応えてくれたのだ。
ズボンのライン。ひざ小僧を過ぎた辺りから、急激に広がっていくそのスタイルに、若者は狂喜乱舞した。
その後。時代は変遷する。ズボンのすそがキュッと締まり、太ももあたりが太い土管のようなズボンが流行る。明らかに、ベルボトムの対極だ。
ミニが流行れば、マキシが流行る。ベルボトムが流行れば土管が流行る。
ファッションは、コンドラチェフの景気循環のように、山と谷をつくって進むのだ。
ただ・・・。誠に残念なことに土管ファッションのトレパンは、販売されなかった、
その頃になると、ジャージがもてはやされるようになったからなのかもしれないけど、ちょっと残念である。
土管タイプのトレパン。あったら見てみたかった。そして、心の底から笑いたかった。