ビートルズ東京公演の時。

専属カメラマンは、浅井慎平さんだった。

彼は、ビートルズが羽田に着いた時から、帰国するまでずっと、シャッターを押し続ける。

浅井さんは、ビートルズが泊まったキャピトル東急ホテルに同宿した。そして、ビートルズの泊まる部屋の中まで撮影した。ビートルズがステージに出かけた後のベッドメーキングしていないベッドを撮ったり、飲みさしのティーカップを撮ったりと。彼はビートルズをまるごと撮影し続けた。


若林で見た空


そんな浅井さんの言葉で、印象的なものがある。

浅井さん。ビートルズと同じホテルに泊まっている間、ビートルズの曲をレコードプレーヤーで聴き続けたのだけど、その歌はブラザース・フォアのものだったそうだ。

なぜ彼は、ブラザース・フォアが歌うビートルズを聴き続けたのか。

そのわけは。

ビートルズが歌うビートルズは、刺激が強すぎたからだそうだ。

ウイスキーで言うなら、それはストレート。

「強すぎて胃を痛めるから、水割りを飲むようにしてブラザース・フォアを聴いた」彼は後年、そう語った。

ビートルズの周辺で息をする人間は、そうした圧縮された空気を吸い続けていたのかもしれない。圧縮した空気を吸い続けたら。ボクだってきっと倒れる。

浅井慎平さんは、この頃駆け出しだった。そして、浅井さんの写真は社会的に見て、まだまだ肯定されていなかった。

ビートルズと同じだ。大概天才というものは、時代を突き抜けて誕生してしまうから、認められるのにタイムラグがある。ビートルズだって、浅井さんだって。そこのところは一緒なのだ。

気の利いた酒場で。ビートルズの歌をビートルズ自身が歌っているのを「ライブ」で聴きながらお酒を飲みたい。

それができたとしたら。

ボクは今、ボクの持つ全ての財産をそこにつぎ込むかもしれない。