ホメロスのイリアスその後編 | サーシャのひとり言

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音楽や絵画など日々見たり聴いたりしたことの備忘録的ブログです。

イリアス自体はヘクトールの死で終わっていますが、その後の出来事を少し。


ヘクトールを殺して親友パトロクロスの仇を取ったアキレウスですが、アポロンの助けを受けたパリスの矢で踵を射られ命を落とします。
ルーベンス「パリスに踵を射られて倒れるアキレウス」
左端パリスの後ろでアポロンが助けています。



ルーベンス画、母テティスが冥府の川ステュクスの水にアキレウスを浸けて不死身にした時、アキレス腱だけ手で持っていたので浸からなかったのは周知の通り。不死身になる前に溺れそうな赤ちゃん・・。




ヴァン・ダイクのパリス照れ
これは良いですね〜。







アキレウスを倒したパリスですが、ヘラクレスの弓を持つピロクテーテースに射られ瀕死の重傷に。
ヘレネと結婚する為に捨てた前妻でニンフのオイノネに治療を頼みますが(何て今更虫のいい!!)断られて亡くなります。
オイノネはそれを後悔して自死します。

オイノネに治療を断られるパリス




ちなみにパリスを射たピロクテーテースは、戦争前のトロイアへの行きの航海の途上、蛇に噛まれてその傷が悪臭を放つので今回迎えに来てもらうまでの10年間、島に置き去りにされていました。
足が臭うのは古今東西、大問題。




一方、アキレウスの死後、それを悼む追悼競技会が開かれますが、亡くなったアキレウスの鎧(ヘパイストスが作った)を貰うのに誰に権利があるのかを巡って、オデュッセウスと大アイアスが争うことに。
判定の結果、オデュッセウスが貰うことになりますが、大アイアスはショックで乱心、暴れまわった挙句に自害します。

ベルデヴェーレのトルソー
ヘラクレスとも言われますが、自害を思案する大アイアスという説もあるそうです。






トロイアのパラディウムを盗み出すオデュッセウスとディオメデス。この2人は結構、つるんでいます。
ちなみにダンテの神曲でも仲良く地獄の第8圏に落とされていて、かなり重めの罪人として扱われています。
アガメムノンの娘イピゲネイアの件など、オデュッセウスは知略に優れていても非情な人に描かれてますね。




一方、ヘクトール亡き後のトロイアに話を戻しますと、
有名な木馬作戦でトロイアは陥落。

ティエポロ
木馬がリアル。


この時、トロイア側で「あの木馬は罠じゃ!」と警告した為に、アテナに遣わされた海蛇に絞め殺されたのがラオコーン。
エル・グレコによるラオコーン




ヘクトールの父プリアモス王は神域に逃れるも、アキレウスの遺児ネオプトレモスに殺されます。
ゼウスの祭壇を血で汚したネオプトレモスもやがて夭折の運命が待っています。




ヘクトールとアンドロマケの子供で幼いアステュアナクスも、やはりアキレウスの息子ネオプトレモスにより城壁から投げ落とされ殺されます。
アンドロマケ自身も、ネオプトレモスの戦利品とされて連れ帰られます。(一方ネオプトレモスは帰国後、ヘレネの娘を正妻に迎え、アンドロマケは望んで来た訳でも無いのに嫉妬されて命まで狙われます)
後日、ネオプトレモスの死後、アンドロマケはヘクトールの弟と再婚します。


メナジョ「母親アンドロマケから奪われるアステュアナクス」



ネオプトレモスが幼いアステュアナクスを城壁から突き落とします。(一説ではオデュッセウスが実行)


トロイア戦争の原因となったヘレネは前夫メネラオスと仲直りしてギリシアに帰りました・・。

ちなみに、トロイア戦争中、彼女の義理両親や義理の弟妹達は彼女に冷たく当たる時もあったそうですが(当たり前と言えば当たり前)、ヘクトルだけは絶対に彼女を咎めず逆に悪く言う親族をたしなめたとか。

ヘレネを連れてきた弟パリスには「冥府に行けば良い!」などと悪し様に言っても、城内で夫パリス以外頼れるものもおらずひとりぼっちのヘレネを追い詰めたりしない、ヘクトル、男らしいです。

ヘクトルの遺体が戻された時、ヘレネは「この広いトロイアの中であなたしか優しくしてくれる人はいなかった」と嘆くのです。

モローのヘレネ