「ニルスのふしぎな旅」第1巻、偕成社文庫 | サーシャのひとり言

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音楽や絵画など日々見たり聴いたりしたことの備忘録的ブログです。

先日のカール・ラーション展で購入したスウェーデン児童文学のテキスト繋がりで「ニルスの不思議な旅」を再読することに。
再読、とは言っても、これまでは1冊にまとめた児童書ヴァージョンしか読んだことがありませんでしたので、完全訳は初めてです。


偕成社文庫から全4巻で出ています。

不精で怠け者、勉強もしなければガチョウの番も満足に出来ない、乱暴で意地悪、生き物を虐めたり他の人にも酷いことばかりする、そんなニルスはスウェーデンに住む14歳の少年。
誰からも好かれず、本人も誰も好いていないニルスの様子にお父さんもお母さんもとても苦労していました。

そんなある日、両親が教会に出かけ、行きたくないニルスが一人で留守番をしていると、ふとお母さんの長持ちを開けている小人の妖精トムテを見つけます。
(トムテが家に居ると良いことがあると言われています)
いたずらをしてやろうと思ったニルスが虫取り網でトムテを捕まえると、トムテは金貨や銀の匙をあげるから離してくれと頼みます。
一旦は、トムテを離そうとするニルスですが、ふと「もっと条件を吊り上げよう」と思いついてまたトムテを網の底に落とそうとしますが・・・。

怒ったトムテは魔法でニルスをリスほどの大きさに変えてしまいます。


困ったニルスはトムテを探しに家の外に出ますが、するともう飼っている牛やニワトリ達から「いい気味」コール!
暴れる牛に踏み潰されそうになって這々の体で逃げ出したニルスが石垣に座って居ると、北を目指して飛んでいくガンの群れが通りかかってガチョウ達に声をかけます。
「一緒においで!」
そしてその声に誘われて、ニルスの家の若い大きなガチョウが思わず翼を広げて後を追おうとします。
「飛んで行ったら大損害!」そう思ったニルスがガチョウの首に抱きついた時から彼の不思議な旅が始まります。





そのガンの群れは、噂に名高い100歳を越した団長ケブネカイセ山のアッカが率いるグループ。
ほんの慰み半分でガチョウのモルテンを誘い出したのですが、一緒にペースを合わせてラプランドに連れて行ってくれる気など毛頭無く・・。
慣れない飛行にモルテンは弱り切り倒れてしまいます。

これまでどんな動物にも辛く当たってきたニルスが、死にそうなモルテンを必死に湖まで引きずって水を飲ませてあげた事から、急にモルテンとニルスの距離が縮まります。
「ガチョウだって立派にやれる事をガン達に見せてやりたい。」、そう言うモルテンとニルスはガンの群れと共にラプランドを目指す事になりました。



それからも夜目の効くトムテの目を持ったニルスは、命がけで狐の「ずる」からガンの仲間を助けたり、お母さんリスが捕まって飢え死にしそうな赤ちゃんリスをお母さんの元に連れて行ってあげたり、油断して羽を切られそうになったモルテンを救出したり・・。

一生懸命、仲間の為に働くニルスにいつしか団長アッカも心を許し、
「あのチビを渡せばお前たちの仲間を狙わない」と狐の「ずる」が誘いかけても
「私らは親指くんの為なら命を捨てるつもりだ。」と拒否するアッカ。
暗闇でそれを耳にしたニルスは別の世界が開けたような気がしてきます。
「あの子は誰にも好かれない」そう言われてきたニルスはもう居ないのです。


アニメ版は殆ど見ませんでした。

スウェーデンの南部地方の美しい自然描写と共に、様々なエピソードが語られますが中でも心に残ったのはニルスがコウノトリのエルメンリクに連れられて訪れたヴィスビイの月の夜の海岸の話。

〜ニルスは砂丘で一枚の古い銅貨を見つけますが緑青がわき、余りにも汚いので拾う気にもなれませんでした。
ところがその銅貨を蹴飛ばすと、ニルスの前に大きなとても美しい都市が出現します。
ニルスの母がいつか長持の中から出してくれた古い絵本の挿絵にそっくりの景色にうっとり見惚れるニルス。
広場には素晴らしい布地や銀の器などを売る様々の小店が軒を連ね、商人たちは小さなニルスを不思議とも思わずに彼を手招きします。
そして美しい品々を示すと、ほんの一枚の銅貨でもいいからどうぞ買ってくださいと勧めてきました。
困ったニルスがポケットを裏返して全くお金がない事をわからせようとすると、商人達の目には涙が溢れます。
商人達の様子に心を動かされたニルスは、ふと先ほど磯で蹴り飛ばした汚い銅貨を思い出し急いで都市の外に走り出します。
運良くあの銅貨は見つかりますが、拾い上げた途端
都市は姿を消してしまったのでした。〜

自分の見た夢のような話をニルスがエルメンリクに話すと、コウノトリはかつて聞いた昔話を教えてくれました。
〜昔、この磯にヴィネタという都があり、比べようもなくお金持ちで幸福な生活を送っていたが、住民は思い上がって見えぼうだったため天罰で海の中に沈められてしまった。
でもその住民は死ぬことも出来ず、都も滅びもしない。
そして100年に1度、昔のまま美しい姿で海の中から浮かび上がり1時間だけ存在できる。
その1時間にヴィネタの商人がたった一人でも生きている人間に何かを売ることができなければ都はまた、海に沈んでしまうのです。〜


びた一文でも払えば都の住民を救うことができたのに、と激しく後悔するニルス。

しかしその後、ゴットランド島ですっかり朽ち果てて廃墟のようになった都市を見たことにより、自分が救えなかったあの都市も、海底に沈まなかったところでやがて荒れ果ててしまうのだ、時代や運命には逆らうことができない、なるようになるのが一番良かったのだと悟るのでした。




🌷🌷🌷

ニルスの旅の始まりが描かれる第1巻。
モルテンをはじめとする動物達が、ニルスが何か彼らの為にしてあげると、さっぱり過去を水に流して今のニルスを認めて受け入れてくれるところがとても印象的でした。
あとは動物の運動会で、決まりに反してガンを襲って殺した狐の「ずる」を狐達がその地方から追放する場面など。

そんな素直で道理を通す動物達に接したからこそ、ニルスも少しずつ変わって行けたのでしょうね。
ヴィネタの都の少しアラビアンナイト風な挿話も、こんな素敵なお話、児童版に入っていた??とびっくり。
4巻全部読み終わってから、ラジオテキストを読むのが今から楽しみです。