シャルルマーニュ伝説をベースに作られた現代のパロディーものです。
シャルルマーニュとフランク人のパラディーノたちは大軍を率いてサラセン人達に対峙するも、既にそれは殆ど何の意味も持たないセレモニー。
行軍の為の行軍といったところです。
そんなフランク軍の中で一人異彩を放つ、それがこの物語の主人公と言ってもいい不在の騎士アジルールフォ。
誰よりも騎士の体裁を重んじ、傷一つない純白の鎧を身にまとうアジルールフォですが、実は鎧の中には何も入っていない、つまり何も存在しないのに存在するものなのです。
一方で、物語途中からアジルールフォの従者になるグルドゥルー。
彼はアジルールフォの真逆で、自分が何者であるかも理解出来ず、何かを目にするとたちまちこれに惹きつけられて、それと自分を混同し一体になろうとする、つまり存在していながらも自分の存在を知らずにいる者です。
あと、とんでもなくシニカルに描かれているのは聖杯騎士団の面々。
殆ど即身仏のような聖杯の王を中心に暮らす彼らは恍惚境の中にいるかのように日がな一日不思議な動きを繰り返して過ごしています。
働きもせず必要なものは近隣の村から強奪し、自分達を動かすのは聖杯であるという調子の良い考えをいいことに堕落した生活に身を任せている妖しい集団。
(聖杯騎士団好きとしてはちょっとこの描かれ方はツライものが・・)
登場人物達の誰もが自分の確たる存在を理解していない、何とも皮肉めいた小説です。
でも、鎧の中が空っぽのアジルールフォが一番、存在しない自分の存在を深く意識していたと思います。
逆説的ですけど。
ラスト、虚ろとは言え自己の存在の唯一の証しをなす外形の鎧を脱ぎ捨て無に帰ったアジルールフォの意味するところは何なのでしょうね。
アジルールフォは一体どこから来てどこに戻って行ったのか。
何とも不思議な、でもアジルールフォの帰結を思うとちょっと切ない読後感のファンタジーでした。