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ファンタシー小説です

「王都の魔女」

 ゼロとクリはバルーシア共国の小さな村スルーム-と言う所に来ていた。そしてそこで西の山にあると言う鉱山の廃坑にやって来た。

 そこでクリアは別れていた兄、アルスに出会った。しかしアルスは傷つき唯一降魔石で悪魔からの攻撃を防いでいたが今やその降魔石の魔力も尽き、最後の時を迎えたようとしていた時にゼロと弟クリアに出会った。

「クリア逃げろ。あいつはザルピンと言う8魔将の一角だ。とてもお前にどうこう出来る相手じゃない」
「でもお兄様、このままではお兄様が」
「俺はどうなってもいい。俺の命に代えてこいつを押さえてみせる。その間に逃げろ」
「それはだめだな。そうすればお前が捕らえられ依り代にされる。そうなると余計に厄介になるからな」
「ほほほほ、何処の誰かは知りませんがよくぞ存じです事。その通りですわ。でどうします。この際貴方の弟と一緒に我々に力を貸しなさい」
「うるさい。誰がお前らなんかに」

 しかしそう言いながらもアルスの力は刻一刻と落ちていた。

「クリア、お前の力を見せてやれ」
「はい、ゼロ様」
「よせクリア。死ぬぞ」

 クリアは兄アルスを庇う様にしてザルピンの前に立ちはだかった。

「これはこれはいい度胸ですこと。それでは貴方にはこれの相手をしてもらいましょうか」

 そう言ってザルピンが召喚したのは2匹のゴブリン・チャンピオンだった。どちらもAランク相当の魔物だ。とてもクリアに倒せるものではないとアルスは思った。これで終わったなと。

 クリアはすーっと手を持ち上げて魔力を練り手から魔弾丸を打ち出した。それも爆裂用の魔弾丸を。2発の魔弾丸は2匹のゴブリン・チャンピオンの正面で爆発し2匹共ひき肉に変えてしまった。

 これを見て驚いたのは悪魔だけではなかった兄アルスも最初は何が起こったのかさえわからなかった。これを弟がやったとは。

「あ、貴方一体何をやったのですか。ゴブリン・チャンピオンを一撃だなんて信じられる訳がないでしょう」
「見ての通りですよ。もう一回やってみますか」
「これは面白いですわね。私の依り代にはこちらのぼくちゃんになってもらいましょうかね。でもその為にはもう少し弱ってもらいませんとね」

 ザルピンはゴブリン・ロードを始めとするAランク超えの魔物を10体召喚した。これでクリアの魔力を削いで精神を乗っ取ろうと言う腹だろう。

「芸のない奴だなお前は。自分で戦う事も出来んのか。屑が」
「な、何ですって人間風情が。あなたこそゴミじゃありませんか魔力もないくせに」
「本当に見る目のない奴はどうしようもないな」

 ゼロは瞬時に10体の魔物達の中心に飛び込み一瞬にして10体全てを切り刻んでしまった。残ったのは細切れになった死体だけだった。ゼロの手に握られていたのは黒光りするゼロの愛刀黒阿修羅だった。

「ば、馬鹿な。何なんですか貴方達は。聞いてませんよそんな人間や魔族がいるなんて」
「今度はお前の番だな。クリア、一発かましてやれ」
「はいです」
「馬鹿じゃないですか貴方達は。私達悪魔は精神体なんですよ。そんな魔法が効く訳ないじゃないですか」
「効くか効かないか自分の体で試してみるんだな」

 クリアは魔弾丸の二連射を行った。最初の初弾は爆裂弾だ、その後間髪を入れずに貫通弾を撃ち込んだ。ザルピンは初弾で大きく後方に飛ばされ体制を立て直そうとした時に心臓に二弾目を撃ち込まれた。

 これには流石のザルピンも膝を付き苦し気に息をしていた。クリアの攻撃は確実に悪魔にダメージを与えていた。ただ残念ながら致命傷には至らなかった事だ。

「何なんですか本当に。こんな事があっていいはずがないじゃないですか。私は上位悪魔、しかも8魔将の一人なんですよ。私にダメージを与えるなんてそんな事があっていいはずがないじゃないですか」
「要するにお前は所詮その程度の悪魔だって事だろう」
「なめるのもいい加減にしなさい。いいでしょう。では私の本当の力を見せてあげましょう」

 ザルピンは自らの全魔力を開放した。一瞬にしてこの洞窟の中に嵐が出現した様だった。流石のクリアも立っている事が出来ず両手両膝をついてしまった。それ程の魔力の奔流だった。

「どうですか、わかったでしょう。私がちょっと本気を出せばこんなものですよ」
「このそよ風程度のものがお前の全開だとでも言うのか。情けなくて涙も出ねーな」
「何で貴方は立っているのです。立っていられるはずがないでしょう」
「立っていられないと言うのはこう言う事を言うんじゃないのか」

 今度はゼロが気力を開放した。ザルピンの魔力が嵐なら、ゼロの気力は最大風速100メートルの大台風とでも言えば良いか、ザルピンの意識が千切れかかっていた。そこにゼロの黒阿修羅の一閃が縦一文字にザルピンを断ち割った。その意識と共に。悪魔は復活すら出来ずに消滅した。

「ゼロ様、いつも言ってるじゃないですか、そんな凄い技を使う時は先に言ってくださいって。僕まで千切れそうでしたよ」
「それよりもお前の兄貴の治療をしてやれ。これは上級ポーションだ。2本くらい使え」
「はい、ありがとうございます」

 その後魔族の兄弟はこれまでの様々な事を話し合った。クリア達の父親が悪魔に乗っ取られ依り代にされた事。ただ父親は最後の意識を振り絞って悪魔に抵抗しアルスを逃がした事。その時クリアは親戚の所にいて被害になわなかった事。母親は依り代にされる前に自害して意識を守った事。

 悪魔がこの世界で力を振るうには相当数の人の魂が必要となる。これは死人でもいい。その上で依り代にする時には依り代は生きている必要と意識がある事が絶対条件となる。ただそのままでは抵抗する者もいるのでそう言う強い者は半死状態にして乗っ取るとの事だった。

 兄アルスは父の体と精神を取り戻し、母親の仇を討つため為に冒険者になって強く成る為に修行しているとの事だった。

「しかしそんな俺よりもあんなに弱くて泣き虫だったお前がこんなに強く成ってるなんてな、信じられんよ」
「それもこれもみんなゼロ様に鍛えられたお陰なんです」
「ゼロってあの人間か。信じられるのか」
「はいです。良い人ですよお兄様。怖いですけど」
「怖くて良い人ね・・・ふむ」

 その日はみんなが泊っている宿に戻り明日また改めて話をしようと言う事になった。魔族の兄弟は宿でも積もる話をしていた。また宿の主人もいなくなったと思っていた客が帰って来たので驚きつつも喜んでいた。その為か夕食には御馳走が出た。

 翌朝、ゼロ達は近くの森にいた。この方が落ち着くとはクリアの言だった。やっとクリアも森の良さがわかってきたようだ。

「ゼロ殿、この度は助けていただきありがとうございました。その上弟が随分とお世話になったようで重ねてお礼申しあげます」
「別にそんな堅苦しい話はいいよ。気楽に行こうぜ」
「はい。あのー何処かで会いましたか」
「覚えてるか、スレイヤーズの武術大会を」
「ええ、あの大会なら。俺は準準決勝で負けました。あっ、あの時の女の子の連れ」
「そうだ。それが俺だ」
「そうだったんですか。であの子は」
「今は聖教徒法国の聖騎士団の団長をやってるそうだ」
「そうですか。それはまた俺の敵になりそうですね」
「かも知れんな。まぁあいつ次第だがな」

 ゼロは遠くを見る様な目をしていた。

「それでゼロさんお願いがあります。俺を鍛えてはもらえませんか。今の俺ではまだ上位悪魔は倒せません。少なくとも弟よりも強く成らないと」
「あっ、僕だってお兄様には負けませんからね」
「お前も言う様になったな。でどうでしょう。お願い出来ないでしょうか」
「俺のトレーニングに付いて来れたらな」
「はい、がんばります」
「お兄様、死なないでくださいね」
「何だそれは」


 その日からゼロのサバイバル・スキルのトレーニングが始まった。今回は少し過酷だった。何しろ相手が相手だ。生半可な練習では勝てるようにはならないだろう。

 練習はまさにクリアの言う「お兄様、死なないでくださいね」だった。それでもアルスはよく耐えた。流石は魔族の強者だ。

 ここから王都までの毎日を森で訓練を続けながら進んでいった。日増しにアルスは強靭な体を構築していった。クリアは守りの技、アルスは攻めの技が得意だ。そして二人共瞑想を元に魔功円を覚えそこからの魔量操作を学んでいった。

 そこに関してはクリアに一日の長があったがそれでもアルスは必死に追いついて来た。やはり兄として面目や自尊心と言った物があるのかも知れない。

 元々剣技と魔法に優れていたアルスの剣は更に冴えわたって来た。魔法を使う所を魔力操作で行う。これは時間的にも規模的にも威力的にも今までの魔法剣の領域を遥かに超えていた。アルスとクリアは正に最強の矛と盾。そんな感じだった。

 ただゼロには10回挑んで10回とも負けた。これは仕方ないと思っていたがそれでも諦めはしなかった。アルスはいつかきっとゼロに勝ってみせると思っていた。その意気込みや良し。

 いよいよ王都に近づいて来た。ここからが本番だ。まずは王都に入って冒険者ギルドでの登録からだ。ゼロとクリアは二人共CランクだがアルスはBランクになっていた。

 実力的にはSに限りなく近いAランクと言った所だろうが、あまり目立ち過ぎるのもまずいと言う事でBランクに落ち着いていると言う感じだった。

 ゼロ達3人が王都の冒険者ギルドに入って行った時も特に衆目を集める事はなかった。クリアもアルスも魔力操作が出来るようになったので自分の魔力量をコントロール出来るようになっていた。

 つまり表面上の魔力量に応じたものしか体からは出てないと言う事だ。もしこの中に相手の魔力量を的確に把握出来る者がいたとしたらむしろゼロを見て驚いただろう。何しろゼロには魔力量が全然ないのだから。

 どうしてこんな者が冒険者をやっている。いやむしろどうして生きていられるのかとさえ思ったかもしれない。

 それはそこにいた魔法使いのカロールだった。彼女はこの町の冒険者達全員を徹底して探査していた。悪魔を葬れるほどの者がいるのかどうか。しかし彼女の眼には誰も止まらなかった。今回もまた外れかと思った。

 ただあの二人はと疑問が湧いた。二人はごく普通の冒険者だ。問題はない。しかし何か、何かが引っかかった。それが何なのかはわからなかった。

 本来であればカロール程の悪魔になればクリア達の正体を魔族だと見抜けていたはずだ。しかしこれもまた魔力操作のお陰て隠せていた。

 登録の終わったゼロ達は壁に張り出された依頼を見ていたが今日は良さそうな物がないとそのまま引き上げて行った。

 カロールは彼らの後をつけようかどうか迷ったがまたやって来るだろうと思って今回はそのままにした。

 冒険者ギルドから表に出たゼロ達は安堵の息を吐いた。
「何者だあれは」
「お兄様、わかりましたか」
「ああ、わかった。飛んでもない奴がいたものだな」
「Aランク、いえもっと上でしょうか」
「そうだな。しかしこの町にあんな奴がいるとは聞いてないぞ」
「最近やって来たんではないですか」
「それならそれで噂位は立つ。それに俺はあいつの顔も名前にも心当たりはないぞ」

そんな事を話しをしながらゼロ達は王都の様子を見る為に巷に消えて行った。