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ファンタシー小説です

「王城の内戦」

「おい、どう言う事だ。また一人死んだだと」
「ええ、今度はザルビンよ」
「何だとザルビンだ。冗談だろう。あいつは確かに変態だが8魔将の中でも腕は本物だ。あれをやれる者がいると言うのか」
「そうね、誰がやったのかはわからないけど確かにザルビンの魂は消えたわ」
「何処でだ」
「それがよく分からないのよ。彼はいつも一人で勝手に行動するから。でもここから南西の方角ね」
「南西か。と言う事はバルーシア共国の方じゃないのか」
「かも知れないわね」
「あそこには今カロールが行ってるだろう。連絡を取ってくれ。しかしこれで8魔将のうち2人も殺されただと。そんな事が信じられるか」

 ゼロと魔族兄弟とは王都の町の中を歩いていたがどうも腑に落ちない。前線の指揮官が死に副官も死んだ。そして軍は撤退したと言うのにその悲壮感がない。

 ある意味それは不屈の闘志を持つ軍隊として良い事かも知れないがそれにしても痛みが伴ってない。負けて死人が何人出ても構わない。何となくそんな気さえする。

 しかしそれは国を守る軍の姿勢、強いては国の指導者たる王の姿勢ではない。少なくとも兵の命を民の命を重んじる姿勢がなければ人はついて来ない。

 確か今の王に代わってから戦争が頻繁になりかっての王子の気質も変わった言ってた。やはり何かあるのか。

「ゼロ様、あそこにもあそこにも悪魔がいます。一体何人悪魔がいるのか」
「恐らく戦場で戦士の魂を食って受肉したんだろう。あそこには十分な死体があったからな」
「ではこの国は」
「そうだな、悪魔の巣みたいなもんだな。恐らく上層部に悪魔の大物でもいるんだろう」
「それじゃー王城に乗り込んでやっちゃいますか」
「おいクリア。それはいくら何でも無理があるだろう」
「ですよね、お兄様」
「それほど急がなくてもいいだろう。今は様子見だ」

 その日ゼロ達は冒険者ギルドの近くで宿を取って作戦会議を開いた。作戦は至極簡単だった。今回はクリアとアルスの実戦練習を兼ねて「悪魔狩り」をする事にした。

 二人には仮面をつけさせ二人一緒では戦わない。一人は必ずバックアップに回って表には出ずに補佐する事。

 これは正体を隠す為でもあるが危険だと感じたら応援も可とした。そしてその稼働時間は依頼を遂行している時とした。依頼を遂行する為に出かけると見せかけてその間に「悪魔狩り」をする。その間にゼロは正規の依頼をこなしておく。

 そして死体は悪魔の状態で晒しておく。こうすれば王城も国民も悪魔の侵入に気づくだろう。悪魔は心臓を抉られると消滅せずにそのままの状態で死ぬらしい。逆に言うとそこまで出来る人間は非常に限られると言う事だ。

 翌日ゼロ達は冒険者ギルドに依頼を受けに行った。今回ゼロが選んだのは薬草の採取だった。これはおよそCランクやBランクの冒険者のする仕事ではない。しかし薬師のゼロなら問題はない。

 ゼロとクリアとアルスは薬草を求めて森に入っていた。今回の薬草はくすみ草だ。目に効く薬だと言われている。この薬草は少し森の奥、若干強い魔物がいる場所に生えている。

 そこに着いたゼロ達はそこで解散した。ゼロは薬草の採取に、その間にクリアとアルスは「悪魔狩り」に向かった。

『お前ら頑張れよ』

 ゼロが薬草を採取している時一人の訪問者があった。
「俺に何か用か」
「お仲間はどうしたのかしら」
「さーな、別の所で採取してるんだろうよ」
「でも何故薬草なのかしら」
「どう言う意味だ」
「貴方達はCランクとBランクなんでしょう。どうして薬草採取なんかやってるのかしら」
「俺は薬師だからな。何か問題でも」
「いえ、ないわ」

「で、あんたは何だ」
「私も貴方と同じ冒険者よ」
「ほーその冒険者が何故他の冒険者の素性を探ってる。探し人か」
「そんな風に見えるかしら」
「ああ、そうにしか見えんが。そろそろ真っ当な仕事をしたらどうだ」
「それはどうも、ではまたね」

 ゼロにはほぼ相手の素性がわかっていたが敢えて相手にはしなかった、今は。

「一体なんなのあいつは。本当に頭に来るわ。小指一本で倒せそうなのに何故か不安になるのよね」

 その頃クリアとアルスは王城近くに舞い戻り悪魔を闇討ちにしていた。ここにいる悪魔のレベルは大体が中位の悪魔だ。

 弱くはないが言うほど強くもない。だたしそれはクリア達のレベルで見た話だ。今のアルスならこの程度の相手、余裕で倒す事が出来た。

「何だ貴様は、俺達を王都の兵士と知っての狼藉か」
「王都の兵士とは良く言う。悪魔のくせに」
「な、何だと。お前は何を言っている」
「お前らが悪魔だと言っているんだよ」
「何を勝手な。貴様は何者だ」
「俺か、俺は悪魔狩りだ」

 アルスは2人の悪魔を倒し、悪魔の素性を現した兵士の体の上に「悪魔狩り参上」と言う札を残して立ち去った。

 今度はクリアが同じ事を行い。それを日を変え場所を変えて色々な所で「悪魔狩り」を始めた。そうなると町の人達も悪魔の存在を直に見、身近に悪魔がいると騒ぎ出した。

 悪魔1人でも大騒ぎになると言うのにこれだけの悪魔が現れたのではただでは済まなかった。この騒ぎは王城の中にも届き緊急会議が行われた。

 しかも悪魔は全員が王都の兵士の軍服を着ていた。そうなると悪魔の潜伏先は王都の軍の中だと言う事になる。こうなると王城の中では魔女狩りに似た光景が現れ始めた。

 つまり兵士同士がお互いが信じられなくなり疑心暗鬼が深まり双方で攻撃し合うまでに至った。こうなればもう規律も何もあったものではない。まして他国への戦争など出来る状態ではなかった。

 この状態は更に悪循環を招いた。攻撃された本物の悪魔が我慢出来ず本性を現しそこで殺戮が繰り広げられた。もはや王城の中は内戦状態だった。

 これも本来の狙いの一つだったので魔将達に取っては悪い事ではなかったが自分達の計画と言うよりも誰かに逆に操られているようで気分が良くなかった。

「おい、一体バルーシア共国の城の中はどうなってるんだ」
「今は内戦状態ね」
「何てことだ。少し早過ぎないか」
「そうね、まるで誰かに踊らされている様な感じね」
「カロールの報告はどうなった」
「まだ誰か見当が付かんようだな」
「何をやってるんだあいつは。使えない奴だな。誰だあんなのを魔将に推薦した奴は」
「それよりもこのままではまずいだろう。取りあえずは王家を安定させなければならん」
「そうだな、潜り込ませてあるジュバンに連絡を取って取りあえずは事態を収めさせろ」

 ゼロが計画した「悪魔狩り」から1週間が過ぎた。城内では今でも疑心暗鬼の炎がくすぶっていた。城内で正体を晒した悪魔は4体だった。中位悪魔と言っても人間と比べれば圧倒的な力を持っていた。

 本来なら王城が壊滅したかもしれないが、宮廷魔術師ジュバンの手によってそれら悪魔は退治され一応の平和は取り戻した。

 しかしそれでもまだ城の中には40名からの悪魔が潜んでいる事は誰も知らなかった。それは王家転覆の際の兵力だったので秘密裏に温されていた。

「ゼロさん、種火はつきましたが沈静化してしまいましたね」
「いや、あれでいい。今回の事で誰が黒幕かわかった」
「それって、あの悪魔を倒したと言う」
「ああ、そうだ。宮廷魔術師のジュバンとか言う奴だ」
「でもどうして仲間同士で」
「きっとまた別の目的があるんだろう。今度はそれを潰すぞ」
「はい」
「はいです」

 その日もゼロ達は薬草の採取に出ていた。今度は3人が揃っている所にその女は来た。

「またお前か。今度は何の用だ」
「ねぇ、おかしくない」
「何がだ」
「貴方達が来てから『悪魔狩り』が始まったんじゃないかしら」
「俺達が『悪魔狩り』だとでも」
「違うの」

「悪魔と言うのはそんなに弱いのか」
「そうよね、BランクやCランクで倒せる相手でもないか。まして貴方ではね」
「随分悪魔に詳しそうだな。お前なら倒せるのか」
「それは無理よ。私もBランクだから」
「お前がBランクだと言うのならAランクの連中は駆け出しにもなれんのじゃないのか」
「あらら、何かしらそれは。それじゃーまたね」

 ゼロはクリアに隠形魔法で後を付けろと言った。しかし相手に気づかれそうになったら直ぐに逃げて来いと言った。

「ゼロさん、あれは」
「恐らく悪魔だろう。それも上位クラスの」
「そうですかやっぱり。でも何で俺達の所に」
「探ってるんだろうさ俺達の事を」

 クリアの尾行は上手く行った。彼女の潜伏先には城内で討伐されたと言う4体の悪魔達が隠れていた。これは良い土産だ。彼女がそこを離れた隙を狙ってゼロ達はその悪魔を殲滅した。そしていつものように「悪魔狩り参上」札を残して。

 これにはカロールも遂に切れた。絶対にあいつらだと。しかしあの程度の力でどうしてこの4体をやる事が出来たのか。もしかすると彼らの後ろには本物の「悪魔狩り」がいるのではないかと思った。

 どっちにしても彼らを殺せば黒幕が出てくるだろうと判断した。

 翌日もゼロ達が薬草採取をしていると推測通りその女がやって来た。

「あんた達の黒幕の『悪魔狩り』を出しなさいよ」
「なんの事かな。勘違いだろう」
「とぼけても無駄よ。私の居場所を見つけて『悪魔狩り』に報告したでしょう。そして私達の部下を殺した」

「ほーやっぱりお前は悪魔の幹部だったのか。しかしそんな幹部が何でこんなパシリみたいな雑用をやってるんだ」
「色々あるのよ。私はまだ魔将では新人だからね」
「魔将とは大したもんだ」

 ここまで来たらもう正体を隠しても仕方ないとカロールは魔力を開放した。それは大きな魔力だったがトゲトゲしい魔力ではなかった。もっと大きな感じの魔力だった。

「惜しいな」
「何が惜しいのよ」
「お前が悪魔だったと言う事がな」
「死んで行く人間が惜しがっても意味ないのよ」

 カロールの頭上に沸き上がったのは黒雲、そこから激しい稲光と共に落雷音が響き渡り辺り一面を落雷が襲った。普通なら全員黒焦げになっていただろう。しかしクリアの結界魔法が全員を守っていた。

「何故、何故私の雷魔法で死なないのよ」
「雷が弱すぎるんじゃないのか」
「そんな馬鹿な事がある訳ないじゃない。それならこれでどうよ」

 それは雷が銛の様になって何本も飛んで来た。防げば同時に雷に感電して死んでしまう。しかしアルスは魔法剣で雷を相殺して全弾弾き飛ばした。

「そんな、私のサンダースピアを弾くなんて人間に出来る訳がないでしょう」

 カロールは更にスピードを上げ数も増して打ち込んで来たがそれをクリアの防壁結界が全て防いだ。

「何で、何でよ。何んで人間にこんな事が出来るの。しかもBランクやCランク風情に」
「俺達が本当にBランクやCランクだと思ったのか。二人共開放していいぞ」

 クリアとアルスが開放した魔力はカロールの魔力を遥かに凌駕していた。魔将クラスの魔力を凌駕したのだ。それはもう天変地異に匹敵する出来事だった。

「う、嘘でしょう。何で何でよ。じゃー貴方達が本当の『悪魔狩り』。そんな」
「ではお前も狩らせてもらおうか」

 その時超特大の雷がカロールとゼロ達の間に落ちて視界が閉ざされた。再び見える様になった時にはカロールはもういなかった。

「ゼロ様、逃げましたよあの悪魔」
「そうだな、逃げたな」
「確かに逃げた。どうしてだ?」