「地上最強の傭兵が異世界を行く-3-14-74」 | pegasusnotsubasa3383のブログ

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「キャロル渓谷の別れ」

 前回の戦いは一応引き分けだった。それはバルーシア共国軍の指揮官と副司令官が途中で倒れたと言う突発事故があったからだ。もしそれがなければリトール共和国軍の敗戦は濃厚だっただろう。

 ただそれら両名の死は伏せられたいたがこう言うものは何処かから漏れるものだ。その事実を知ったリトール共和国軍はここが勝負の分かれ目だと今度はリトール共和国側から打って出た。

 前回はバルーシア共国軍が撤退したとは言え全軍を引き上げた訳ではない。守備部隊はちゃんと残していた。しかもその中には悪魔兵もいた。それを知らないバルーシア共国軍が何度か奇襲を掛けたが今の所全て失敗していた。

 更には今本国からバルーシア共国軍の本体がこちらに向かいつつあった。その軍を率いるのは新国王ドルジャ本人と参謀のジュバン宮廷魔導士だ。今度こそ大成果挙げて見せるとドルジャは張り切っていた。

 ジュバンも今回は25人の悪魔を連れて来てる。まず負ける事はあるまいと思っていた。ただ一抹の不安があるとすれば、それは前回のグレムトンの死だ。誰があのグレムトンを殺したのか。痩せてもあれは上位悪魔だ。人ごときに倒されるはずがない。その事が引っかかっていた。

 今回のバルーシア共国軍の中には準強制依頼によりかき集められた冒険者達も混じっていた。その中にアルスもいた。当然彼らは最前線だ。つまり一番命が軽く扱われる場所と言っていい。

 彼らバルーシア共国軍の本体が前戦に辿り着いた時には既に戦いは始まっていた。そこでジュバン参謀はすぐさま冒険者軍団の参戦を指示した。その後を追って正規軍が続いた。しかし少し様子がおかしかった。

「ねぇ兄様、あれっておかしくないですか。あいつら敵味方関係なく殺してますよ」
「そうだな。多分悪魔軍団だろう。あいつらに取ってはどっちが死のうが関係ないんだろう。要は人の魂が食えればいい」
「ひどいですね。でも兄様が戦う訳にはいかないでしょう」
「一応は自軍だからな」
「わかりました。じゃー僕がやります」
「ああ、任せた」

 クリアは陰から悪魔を倒して行った。クリアの貫通魔弾丸は正確に悪魔を射抜いて行った。悪魔達も自分が一体何処から狙われているのかもわからず混乱を起こしていた。

 その為に益々見境なく周囲の者を殺し始めた。

「おいジュバン。あいつらは一体何をしておるのだ。味方を攻撃しておるぞ」
「そうですな。きっと気が動転しておるのでしょう」
「気が動転して済む問題か。誰か抑えて参れ」
「ははっ!」

 本体中央から親衛騎士団が沈静化に向かったが誰もその命令を聞かずその全員が逆に殺されてしまった。

「おいジュバン。一体どうなっておるのだ。何故味方を殺す」
「王よ、あれは味方を殺しているのではございませぬ。餌を殺しているだけでございますよ」
「餌、今餌と申したか。どう言う意味だジュバン」
「簡単でございますよ。悪魔に取って人間はみな餌。そう言う事でございますよ」
「あ、悪魔だと。お前は何を言っておる」
「頭の悪いガキだな。要するにお前も餌だと言う事だ」

 好々爺の様なジュバンの顔が一瞬にして悪魔の顔、悪魔の体付きに変わった。それを機に悪魔軍団もみな本来の姿形に戻って人間を殺し始めた。そこはもう敵も味方もなく阿鼻叫喚の世界だった。

「そんな。これは一体」
「要するにお前らはわしら悪魔に踊らされた餌だと言う事だ」
「いや待て。待てジュバン」
「お前の魂も食ってやろう」

 その時一陣の風がジュバンをテントの外に弾き飛ばした。

「アルスいるか」
「はい、ここに」
「あの悪魔は任せた。倒せ」
「承知」

 ゼロは唖然としてる新王、ドルジャに張り手を一発かませてテントの端までふっとばした。

「いい加減目を覚ませ。ボケが」
「な、何をする。貴様は一体何者だ」
「黙ってこれを読め。お前の父親からだ」
「何だと、父上からだと」

 手渡された手紙にはこれまでの悪魔達の計画が書かれていた。そして自分自身もその計画に嵌められて毒を盛られた事も。

「そんな、そんな事が」
「お前が調子に乗って戦争ごっこなんかしてるからだ。国を潰したいのか。俺はお前ら王族がどうなろうと構わんが民衆の苦難はどうする気だ。民衆などどうでもいいと言うのならここでお前を殺して民衆の恨みを晴らしてやろうか」
「ま、待って、待ってくれ。少し考えさせてくれ」
「馬鹿かお前は。今この瞬間にもお前達の兵士が悪魔に殺されている事がわからんのか。お前は本当にどうしようもない馬鹿だな」

 ゼロはもう一発ドルジャを張り飛ばしてテントを出て行った。テントの外はまさに血の池地獄だった。そして状況が大きく変わっていた。

 何処から現れたのかそこには一人の上位悪魔がいた。そして彼は中位悪魔や下位悪魔達を召喚していた。その為悪魔の数は100人にも及んでいた。もはや敵も味方もない。全ては悪魔によって蹂躙されていた。

 少なくとも数千に上る兵士達が命を絶たれていた。つまりそれだけ悪魔の力は強大だったと言う事だ。並みの人間ではやはりどうする事も出来なかった。

 リトール共和国軍はこの地獄が始まった頃から逃走に入っていた。それでも逃げ遅れた者は片っ端から悪魔に殺されて行った。被害と言う点では自国軍になるバルーシア共国軍の方が多かっただろう。しかし悪魔にはそれはどうでも良い事だった。要はみな餌だ。

『久しぶりの戦場だな。では俺も楽しませてもらうとするか』

 ゼロも仮面をつけて戦場に躍り出た。そこにはゼロではなく「戦場の死神」の顔があった。

 この程度の数なら黒阿修羅を使う事もないとゼロは素手で戦った。しかしその体には強気が充満し触れるだけで悪魔達は木っ端微塵になっていた。

 誰もゼロの前に立ちはだかる事は出来なかった。それこそが元の世界で恐れられた「戦場の死神」の姿だった。

 ゼロの拳脚で破壊された悪魔は二度と復活する事は出来なかった。魂の根源まで破壊されていたからだ。

「お、お前は何者だ。何故お前は悪魔を倒せる」
「それはお前らが弱いからだろう」
「我々が弱いだと。冗談もいい加減にしろ」
「お前は少しはましな様だな。向こうにいるジュバンとか言う奴と同じくらいか」

「ふん、少しはわかるのか。我々は上位悪魔だ」
「上位悪魔ね。では聞くがお前とザルピンとか言う悪魔とどっちが強い」
「ざ、ザルピン様だと。あの方は8魔将の一人だぞ」
「ほーではお前よりは強いと言う事か」
「当たり前だ。魔将様を何だと思ってる」

「それでは俺には勝てんな。俺はそのザルピンを殺した男だ」
「ば、馬鹿な。魔将様が人間などに殺されるはずが・・・」

 一瞬の縮地で距離を詰めたゼロの右拳の一打で悪魔の右腕が粉砕し、そのまま回転して下段廻し蹴りで悪魔の足を砕いた。

「どうした。悪魔ならその程度の傷、復元するんじゃないのか」
「馬鹿な、復元出来ぬ」
「やはりお前も三流だったな。死んどけ」

 悪魔の胸の中央に押し当てられた拳は発勁によって胸を粉々にした。顔と手足だけが残っていた。これなら辛うじて悪魔だとわかるだろうとゼロはその場を離れた。

 その間アルスとクリアはジュバンと戦っていた。相手は上位悪魔だ。相手に取って不足はない。ジュバンは魔法使いだ。しかしその攻撃魔法の尽くをクリアの結界が防いでいた。そしてその間隙を縫ってアルスの魔法剣が攻める。

 ジュバンにはどんな魔法も効力を発揮させる事が出来なかった。攻撃は防がれ剣技ではアルスに太刀打ち出来ず、少しずつ身が削られ魔力も落ちて来た。

「待て、話し合おう。お前達は好条件で我が陣営に迎えよう。それでどうだ」
「甘いな悪魔。俺達の目的は全悪魔の殲滅だ」
「な、何だと。貴様らは一体何者だ」
「死んだ魔族の恨みを知るがいい」
「魔族だと、貴様らが魔族だと言うのか」
「さらばだ悪魔」

 アルスの剣から迸った稲妻は完全にジュバンの体を焼き尽くした。そして魂までも。今までのアルスならここまでは出来なかった。しかしゼロから学んだ魔力操作で精神域への攻撃も可能になった。

「兄様、やりましたね」
「ああ、これで親父と母の仇が討てそうだ」

 この壮絶な戦いは後に「魔交戦」と呼ばれ人類の歴史に恐怖の戦いとして記された。しかしこの戦いの中に3人の怪人がいた事はほんの一部の者しか知らなかった。そして真相は闇の中に持ち込まれた。

 後に父に諭され自らの非を詫びた新王は改めて民の為の国政に精進すると誓った。戦いの後始末は双方の話し合いによって和解を見たが、バルーシア共国がより大きな負債を負った事は否めない。

 戦場の地、キャロル峡谷に3人の男達が立っていた。

「クリア、アルス、これからどうする」
「はいゼロ様、僕達話し合ったんですが先ずは降魔石を作ろうと思います。あれがあれば魔族でも悪魔から身を守れますから」
「それから俺達は残りの魔将達を求めて行こうと思います。父母の仇を討つ為に」

「いいだろう。これでお前達は俺のサバイバル・キャンプの卒業生だ」
「ゼロ様。いえ、お師匠様。本当にこれまでお世話になりありがとうございました。このご恩は一生忘れません」
「俺もです師匠。信義の前には人間も魔族もないと言う事が良くわかりました。師匠の技、後の世に伝えて行きます」
「あ、僕もです」
「頑張れよ」

「あのー師匠は」
「俺か、俺はいつもの通りだ。自由に旅をするさ。じゃーな」

 ゼロはキャロル峡谷から更に北西に。クリア達はバルーシア共国の北東へと向かった。お互いの目的の為に。

(第三部完)