「地上最強の傭兵が異世界を行く-3-13-73」 | pegasusnotsubasa3383のブログ

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「前王」

『まったく冗談じゃないわよ。何なのよあれは。あれはバケモノ。そうよバケモノよね。やってられないわ』
『あんなのが二人。勝てる訳がないじゃない。あれってもしかしたらギルガン様よりも上?まさかね』
『ブルブルブル、ギルガン様は悪魔至上主義者。そんな事言ったら私殺されてしまうわ。こんなの報告出来る訳ないし、ヤメヤメ。今回は何も見なかった事にしよう』

 ここ悪魔城でもカリヨンが突然現れた二つの強い魔力を感じていた。
『何これは。こんな所に2人も上位悪魔がいたかしら。そんな報告は受けてないし、反応は直ぐに消えてしまったし、あれは何かの間違い?私の感覚も鈍ったのかしらね』

「ゼロ様、どうします」
「あの女の事か。まぁいい、放っておけ」
「いいんですか」
「ああ、今はな。取りあえずギルドに戻るぞ」
「はいです」

 一方冒険者ギルドではちょっとした騒ぎになっていた。リトール共和国軍がこの国に攻め込んで来ると言う。それはリトール共和国軍に参加している同じ冒険者仲間からの情報だった。

 冒険者と言うのは元々誰にも縛られない自由人だ。だからその国の為に戦わなければならない事はない。嫌ならまた場所を変え、国を変えればいいだけの話だ。

「おい、もし本当にリトール共和国軍が攻めて来たらどうするよ」
「そりゃ逃げるだろう。この国に義理はないからな」
「まぁそうだよな。それに向こうにいる昔の仲間とは戦いたくないからな」
「そうだぜ。無駄死になんかしたくねーよ」

 その時ここのギルドマスターから通達が出た。国からの準強制依頼でBランク以上の冒険者は国と国民を守る為に戦闘に参加するようにと。

「おいおい、まじかよ。冗談じゃねーな。俺Cランクで良かったよ」
「俺はどうなるんだよ。Bランクだぜ」
「トンずらこくか」
「そうだな、いざとなったらそうするか」

 本来冒険者に国を守る義務はない。それは国軍の仕事だ。ただ町や住民の命を守る為と言う事であれば強制依頼も威力を発揮するが、戦争となれば話が別なのでこれはあくまで任意だ。だから準強制依頼になる。

元々国に対する忠誠心などない冒険者だ。こう言う場合でも逃げる者は多かった。ただ緊急依頼には高価な報酬が伴う。それ目当てに参加する者もいたが今回は命懸けだ。果たしてどれだけの人間が参加するか。

「ゼロ様、これって」
「そうだな、アルスが当てはまるか」
「俺はどうしたらいいですかね」
「一応参加してみろ。お前なら簡単に死ぬ事はないだろう。それで状況を探るんだ。お前にはやって貰いたい事があるからな。ただし本気で相手方と戦うなよ。それとな悪魔との乱戦になったら渡した仮面を付けろ」
「わかりました」

「クリアは隠形魔法を使ってアルスをバックアップしろ。俺はその間に王城に潜り込んでみる」
「じゃーやっぱりぶっ飛ばしに行くんですね」
「そう焦るな。それも状況次第だ」

 こうしてアルスは準強制依頼に参加する事になりゼロは王城に潜り込む事にした。ただしこの間にもゼロは見つけた悪魔は抹殺していた。   
 
 恐らく悪魔の兵士の半数以上は戦場に向かっただろう。先の戦争で双方共に多くの兵士を失くした。だから戦力は落ちているはずだがこの悪魔の参戦によってバルーシア共国軍の戦力の方が遥かに強力になっていると言っていい。

 そこで更なる殺戮を繰り返しもっと悪魔の召喚を行うつもりなのかも知れない。だからアルスには悪魔を見つけたら適当に処理しておけと言っておいた。

 ただし悪魔召喚は中位悪魔では出来ないはずだ。少なくとも上位悪魔が必要になる。前回の戦争ではグレムトン中将がその役をやっていた。すると今回はもう一人の陰の上位悪魔がいると言う事になる。

 となると戦場の作戦本部にはそいつがついて来るだろう。恐らくは参謀として。だからゼロはアルスにそいつを殺せと命じた。今のアルスとクリアならそれも可能だろう。

 ゼロは隠形の術を使って王城に乗り込んだ。まだあちこちに悪魔が残っていたがそれらは簡単に一掃してしまった。城の中に入ってみると空気が淀んでいた。これから戦争をしようと言う国の中核とはとても思えなかった。

 うつろな目をした貴族や重鎮ども兵士ですら覇気が欠如していた。まるで生きた亡霊。そんな感じだった。これで本当に戦争をするつもりだったのかとゼロは思った。

 ここの王は一体何を考えている。いや何も考えてはいないか。ただの操り人形と言う事か。

 今の王は第一王子が最近継承した。では前王は。確か奥の院で静養していると言う話だ。病気なのかどうなのか。ともかく奥の院に行ってみる事にした。

 前王が静養していると言う部屋の前には屈強な衛兵が4人も張り番をしていた。ちょっと普通ではない。老人の部屋にここまでの警備はつけないだろう。ともかくゼロはその4人をあっさりと倒して中に入った。

「何者です。ここは前王様のお部屋と知って入って来たのですか」
「お前は誰だ」
「私は前王様の付き人兼看護人です。無礼は許しませんよ。衛兵!衛兵!」
「あいつ等なら眠ってるぞ」
「なっ、何ですって。この城でも屈強な4人なのに」

 ゼロはこの付き人を無視して前王に近づいた。するとその女が邪魔をしようと割って入ろうとしたが軽くゼロに弾き飛ばされた。

「お主は何者じゃ。ドルジャの使いの者か」
「あんたが前の王さんかい」
「そうじゃがお主は」
「俺はゼロと言う冒険者だ」
「冒険者が何用じゃ」
「俺はまた薬師でもあってな。どれ、これがあんたの飲んでる薬か」

「や、止めなさい。何をするのです。それは大切な前王様の薬です」
「何の薬だ」
「そ、それは健康増進の薬に決まってるではありませんか」
「ではお前が飲んでみろ」
「えっ、なんで」
「毒でないなら飲めるだろう。飲め」
「・・・」
「どうした飲めないのか」
「前王様のお薬など恐れ多くて飲めません」
「そうか、なら俺が飲ませてやろう」

 ゼロがその女の腕を引っ張って無理やり飲ませようとすると顔を激しく横に振っていやいやをした。

「や、止めて下さい。私はまだ死にたくありません」
「ほーこの薬を飲むと死ぬのか。面白い。俺が倹薬してやろう」

 ゼロはその薬の包を開いて検査した。

「見事な微弱毒だな。、直ぐに死ぬ事はないが徐々に体力が落ちやがて死に至る。後10日位か」
「なっ、何じゃと。その薬が毒だと申すか」
「あんたも良い部下を持ったもんだな。で誰に頼まれた」
「それは・・・言えません」

 女は口を一文字に結んで話す事を拒絶した。

「お前の様な者を間者と言うのを知ってるか。そしてその正体がばれて捉えられたら間者には拷問と死が待ってる。それが間者の宿命だ。その覚悟は始めからあったんだろうな」
「そ、そんな。私はただ」
「ただ金に誘惑されて国の前王を殺そうとしたのか」
「いえ、ち、違います」

 その時ゼロは容赦なく女の右腕を切り落とした。

「わっ、私の腕が・・腕が・・痛い・・」
「その程度で根を上げるな。本番はこれからだ」
「や、止めて下さい。お願いです」
「お前はこれ位の事はされても仕方のない事をしたんだ。わかっているのか」

「私はただ、私はただ、お金がもらえる言われて」
「戦争を舐めるなよ。誰に頼まれた。何なら残った腕も切り落としてやろうか」
「言います。言いますから命ばかりは。宮廷魔導士のジョバン様です」
「やっぱりあいつか」

 ゼロは女の止血だけして捕らえておいた。

「どう言う事じゃ。何故ジョバンが」
「あんたは本当に何も知らんようだな。これを見ろ」

 そう言ってストーレッジから引き出したのはゼロが殺した悪魔の死体だった。そしてその死体はバルーシア共国の軍服を着ていた。

「これはなんじゃ、人ではないな」
「初めて見るのか。これが悪魔だ。そしてこの悪魔はこの国の軍隊に紛れ込んでいる」
「あ、悪魔じゃと。何故そのような者が」
「あんたがそれを言うのか。散々戦争を起こして死人の山を築いたのはあんただろう。悪魔は死んだ人間の魂を食らって受肉しこの世に現れる。その種を作ったのがあんただ」
「そ、そんな。わしはただ国が強く成って豊かになればと思って」 

「富国強兵か。しかしな、あんたは現実と言うものを知ってるか。村や町では成人の働き手を兵隊に取られて生活に窮してる。しかもその者達は帰っては来ない。こんな状態にしたのは誰だ。みんなあんたら戦争狂だろが」
「それは」
「だからそこに付け込まれて悪魔に入り込まれるんだ。まして宮廷魔導士と言う要職までな」
「あのジュバンが悪魔だと申すのか」
「ああ、そうだ。それもとびっきりの上位悪魔だ。それにもう一人いたぞ。グレムトンと言う奴も上位悪魔だった」
「まさかあのグレムトンが」

「そうだあいつがこれまでの悪魔を召喚していた。だが俺が殺した」
「お主があのグレムトンを殺したと言うのか、あの最強の軍人を」
「今度はその魔導士が戦場に向かってる。また悪魔を召喚するつもりだろう」
「そ、それは、止められるのか」
「今俺の仲間が向かってる。何とかするだろう」

「そうか、迷惑をかけるの」
「問題はそこじゃねー。あんたらの好戦意識だ。それがなくならない限り悪魔は何度でもやって来るぞ。そしてあんたの息子が魔導士にそそのかされてそれを助長してる。このままではこの国は亡びるぞ」
「ドルジャもか」

「俺が出来るのはここまでだ。ただ魔導士の悪魔だけは俺達が責任を持って倒してやる。それからあんたの毒素は中和ておいた。後でこれを飲め。上級ポーションだ。元気になるだろう。その後は自分達で考えろ。ただ俺達の事は口外しないでくれたら助かる」
「わかった。すまぬのゼロとやら」

 ゼロは帰りがけにこの城で意識誘導されていれる精神魔法を解いておいた。そして残りの悪魔を全て殺してそのまま放置した。きっと何が起こっていたかわかるだろう。

『まったく面倒をかける奴らだ』