第二部「地上最強の傭兵が異世界を行く-2-03」 | pegasusnotsubasa3383のブログ

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「王子の危機」

 帝国の転覆を狙うマスリスト公爵家の作戦責任者であるカーネル執行官は部下から信じられない報告を受けていた。

「もう一回言ってみろ、実験場がどうしただと」
「ですから実験場は木っ端みじんに吹き飛んだと申し上げたのです」
「何だそれは、実験の失敗で爆発でもしたと言うのか」
「いいえ、恐らくは外部からの攻撃かと思われます。あたり一面焼け野原になり中心部では地面が抉れたようなクレーターが出来ておりました」
「何処の誰がそんな事をしたと言うのだ」
「わかりません。何一つ証拠になるような物は残っておりません」
「では獣魔人や機材、いやドメイグ・ドクターは」
「生存者は誰一人としておりません。そして機材も何もかも全てが消滅しておりました」
「馬鹿な、何と言う事だ」

 カーネルは椅子の上で頭を抱える様にしていた。そこに仲間の3人が駆けつけて来た。

「おい、カーネル、報告を聞いたが一体どうなっておるのだ」
「わからん。ともかく計画は失敗したと言う事だ」
「ではメルトバンの方は」
「獣人国からの侵略と言う筋書きは修正しなければならないがそれでもまだ駒はある」
「先行させているあの2体の獣魔人か」
「そうだ、奴らに王子を狙わせる」
「そうだな、なら我らも直ぐに現場に行った方がいいな」
「ああ、そうだ。直ちに向かおう」

 彼ら3人は部下を連れて飛行船に乗りメルトバンに向かった。一方ゼロ達も馬を駆り立ててメルトバンに向かっていた。

 カーネルは飛行船の中で今回の事件をはじめから考え直していた。どうしてこうなったかを。

 事の始まりは実験場からの四人の脱走だ。二人は既に獣魔人になっていた。しかし意識改造がまだ行われていない人間だった。もう二人はまだ施験前の人間だ。そして四人共帝国の兵士だった。

 ここまでは仕方のないミスだとしよう。逃走した四人はメルゲスの町に逃げ込み、一軒の宿屋に入り人質を取って立て籠もった。これも想定内の事だ。追跡装置で相手の居場所は直ぐにわかったので包囲した。

 立て籠もりの宿屋に突入し、一体の獣魔人を無力化した。これはその場で殺処分にした。ここまでは良かった。こちらの計画通りだ。

 問題はここからだ。1体の獣魔人の抵抗に合い更に逃げられた。これはちょっとした誤算だったがそれでもまだ対処は出来た。こちらは追跡装置を持っていたので追跡すれば居場所は直ぐにわかる。良かったのはここまでだ。

 その追跡班が森の魔物に襲われて6人が死亡4人が逃げ帰った。しかし何故彼らが魔物に襲われた。森の事だ可能性はなくはない。しかしとカーネルは思った。

 そして実験場が襲われて全てが壊滅した。問題はどの様にしてと言うのもあるだろうがその時中の獣魔人達はどうしていたかだ。

 既に20体は稼働可能な状態にあったはず。ドクターがその気になれば動かせただろう。無抵抗なまま殺されたのか、それとも抵抗したが勝てなかった。

 そんなはずはない。今回の獣魔人はBランク上位並みの力を持っていたはずだ。それが20体。これに対抗出来る勢力などあるのか。

 もう一つ気になる点がある。あの人質になっていた冒険者だ。Cランク冒険者だが聖教徒法国の隠密の可能性がある。その男を尾行させていたが図書館を出た所で巻かれた。その後の消息が掴めない。一体何処に行ったのか。

 そして今回の事件が起こった。何か関連はないのか。何一つ繋がりは見えないがカーネルは何か嫌な感じがした。何故ならそれはその男が唯一つの外部要因だからだ。早めに殺しておけば良かったと思った。

 成人の儀式を3日前に控えた帝都の王子の部屋では王子ハミルトンを前に母のセルフィーヌが感無量の思いを込めて愛する息子を見つめていた。

「これでやっと貴方も成人になるんですね。この日をどれほど待ち望んだ事か」
「お母様、まだほんの始まったばかりですよ」
「いいえ、成人の儀の日がどれほど大切な日か知らないのですか。その日は神よりお告げがあるのですよ。そして貴方はこの国の未来を導く光の子となるのです」

 このドイケル帝国の祭る神はゲール神、別名「闘神ゲール」と言われている。正に闘い神だ。ここは文武両道を地で行くような国柄だった。

 ルトバンに着いたゼロとマーカスは先行したケリンとバーストを探した。幸い王子の護衛団の中にマーカスの知り合いがいたので聞いてみると、彼らは北の森の警戒に行ったと言う。ゼロ達がその森に行くと二人は森の手前に配置されたトーチカの中にいた。

「ケリン、バースト、無事か」
「おお、マーカスか。良く辿り着いたな。向こうはどうだった」
「ああ、実験場は潰して来た」
「本当か、それで獣魔人達は」
「それも殲滅した。このゼロがな」

「冗談だろう。俺達が出る時には既に何体かが完成されていたはずだが」
「ああ、それも含めてな。ところでこっちの状況はどうだ」
「一応俺達が見たものは護衛隊長に報告して、奇襲があるかも知れないとは伝えたが信用してるかどうかはわからん」

「まぁ無理もない。御伽噺みたいなものだからな。しかし確実に先に完成した2体の獣魔人がこっちに来てるぞ」
「本当か、それはまずいな、今の警備体制では不十分だろう」
「そうだな、難しいかもしれん。あの獣魔人の力はAランクに近い」
「何だって、そんな・・・防げるのか」
「わからんがやるしかないだろう。こちにはゼロもいるしな」
「ああ、そうだな。やれるだけやるさ」

 どうやら彼らも腹を決めた様だ。

 成人の儀に臨む前に禊ぎの儀として聖水で体を清める為に王子は霊寮に入る。襲って来るとすれば恐らくその時だろう。神のお告げを受ける為に教会内に入ると結界が邪魔になって襲撃がし難くなる。

 だから警護もこの時は特に厳重に周りを固める。しかしそれでもあの2体の獣魔人には効果がないだろう。

 3人の兵士達がにらんだ通りその時を狙って2体の獣魔人が襲って来た。しかもその後ろには数十の武装兵がいた。完全な殲滅を狙っているのだろう。

 護衛隊も対人との戦いには慣れているだろうがこんな獣魔人とは戦った事がないだろう。しかも力が違い過ぎた。

 精鋭と言われる護衛隊でも手も足も出なかった。獣魔人の腕の一振りで数人が細切れにされてしまう。もはや戦いとすら言えない殺戮だった。

 ここは同じ獣魔人が戦うしかないだろう。ゼロはここに来るまでにマーカスに新しい能力について説明をしていた。

 それは部分開放と言うものだった。体の一部、例えば腕だけとか足だけとか。自分の開放したい部分だけ獣魔人化出来ると言うものだ。これには意識操作と魔力の固定化が必要になる。

 全面開放した方が総合力では大きくなるが特殊性と言うか特化性は出せない。戦い方によっては特化した方が相手に勝る時もある。特に今回のような場合は特化の方がいいとゼロが言った。

 相手は完成したばかりで体の操作がまだ完全ではない。だからフルパワーではまだ戦えない。それに俊敏性に劣る。

 だからゼロはマーカスに身体強化を掛けさせた後で腕だけ獣人化させた。瞬発力と機動性、それに虎の腕力を持たせる。そうすれば2体1でも勝てるとゼロが言った。戦い方はヒットアンドアウェイだ。

 マーカスが分かったと言って飛び出そうとした時、これを付けろとゼロがマスクをマーカスに渡した。腕以外は人間だ。当然顔も。なら今はまだマーカスだとばれるのはまずいだろう。

「よっしゃー。じゃー暴れてくるぜ」

 そう言ってマーカスは嬉々として2の獣魔人に向かって行った。この時ゼロは言ってなかったがマーカスの獣魔人化は普通の獣魔人よりも30%ほどパワーを上げてある。つまり相手がAランク相当ならマーカスは純Aランクだ。これなら負けるはずがない。

 2匹と1体のバケモノ同士の戦いは熾烈を極めた。たが力任せのだけの獣魔人に対し戦術と技を使ったマーカスが優勢に立ち最後には勝利を収めた。

 マーカスはそのまま後方の武装兵達の殲滅も行った。ゼロはその間に改造した焼夷手榴弾で獣魔人達の死体を灰にしてしまった。死体から獣魔人の構造を知られるのはまだまずいので。

 この展開はカーネル達に取っても予想外だった。まさかあの2体がたった一人の人間に負けるとは信じられなかった。まして相手は獣魔人ですらない。

「奴は一体何だ」
「カーネル、どうする」
「ここは撤退するしかないだろう。作戦の練り直しだ。行くぞ」
 
 帝子の殺害に失敗したカーネル達は蜘蛛の子を散らすように撤退して行った。これでひとまずの危機は去った。マーカスやケリン、バースト達が望んでいた王子の命は守れた。

 ただ狐につままれたような顔をしていたのは王子やその取り巻き達、そして生き残った護衛隊員達だった。一体何が起こったのか誰もわからなった。ただ助かったと言う事だけが事実だった。

 予期せぬ事故はあったがその後予定通りに成人の儀は行われ、王子は無事成人となった。そして神の祝福を受け、「明光」と言う異名を授かった。

 その夜メルトバンのひっそりとした酒場でゼロとマーカス達3人が集まっていた。

「マーカス、お前のそれは一体何だ、獣魔人とは違うのか」
「俺にもよくはわからんがゼロが改造してくれたようだ」
「ゼロ、あんたはあのドメイグと同じなのか」
「俺はあんな狂人科学者とは違う。俺がしたのは改善だ。改悪じゃない」
「何なんだその改善と言うのは。それも魔改造だろう」

 ケリンやバーストの顔には苦々しい思いとまた恐怖もあった。

「ケリン、これは俺が望んだ事だ。俺も帝都の兵士だ。この国を守りたい気持ちはお前達と同じだ。幸か不幸か俺はこんな体になった。ならこの体で出来る事をしたいと思ったのさ」
「そうか、お前がそれでいいと言うのなら俺達には何も言う事はない。すまんなお前にだけ苦労をかけて」
「何を言ってる。俺達は同期じゃないか。思いはみな同じだ。それでお前達はこれからどうする」

「ああ、俺達はまた帝都の兵士に戻る。一応話はついたのでな。それでお前はどうするんだ」
「俺はこんな体だからな、元に戻る訳にはいかんだろう。俺に出来る形で国を守らせてもらうよ。それにまだあいつらとの決着がついた訳じゃないしな」
「そうだな、本番はこれからだな」
「ああ」

 翌朝、王子を守る護衛隊と一緒に帝都に向かうケビンとバーストを町の外れで見送ったマーカスはゼロに訪ねた。

「ゼロ、あんたはこれからどうするんだ」
「俺は冒険者だからな冒険をするさ」
「なぁゼロ、もし良ければ俺もあんたの冒険に突き合わせてはくれないか」
「お前も冒険者になると言うのか」

「ああ、冒険者なら自由だからな。あいつらの動向も探れるかもしれん」
「冒険者はそんなに甘くはないぞ」
「わかってるさ。でもやってみたいのさ」
「いいだろう、じゃー行くか」
「ああ、宜しく頼む」

 うしてゼロは新たなパートナーを得てまた旅を続ける事になった。