第二部「地上最強の傭兵が異世界を行く-2-02」 | pegasusnotsubasa3383のブログ

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「魔改造」

 ゼロはドルケル帝国に入って宿屋のレストランでいきなり人質にされた。人質になったのは店の主人を入れて7人だった。

 人質犯が逃げた後人質にされていた4人は事件の口封じの為に殺されてしまった。生き残ったのはゼロと店の亭主と従業員だけだった。

 ゼロはその背景を探っている内にこの国の転覆を企てる一派と人間を獣人に変える獣人化計画なるものを知った。

 また厄介な事件が起こったものだと思ったが一応自分も当事者なので被害を受けない内に調べられる事は調べてみようと思った。

 この町に残る古代遺跡の記録、もしそうならそこから何らかの知識を得て獣人化を行っている者がいてもおかしくはないと思った。

 ただここの領主はどっちの味方なのかと言う事だが、残念ながら反王家だろうとゼロは思った。

 あれだけの大事なのに何も手を打たない領主や衛兵が動かないのはおかしい。恐らくぐるだろう。

 当座の敵の首領はカーネルと言う人物か。もう少し詳しい事情を知るにはどうすればいいか。あっ、そうかあいつらがいたか。

 ゼロはこの町の近くにある森に向かった。あの獣人化した者達が逃げ込んだとしたらやはり森しかない。

 それなら探すのはそれほど難しくはない。森はゼロに取っては馴染の場所だ。これまでの旅の半分は森で寝起きして来たのだから。

ゼロは森に入って気のセンサーを広げた。半径30メートル、これでは狭過ぎてわからない。300メートルと広げた所で一人の人間の反応を見つけた。その人間に近づくと更に周囲に9人の人間の反応があった。

 ただしこの10人は少し散らばって移動している。これは恐らく追跡班だろう。とすればこの先に例の3人がいるのか。

 ただそうだとしてもどうして彼らにそれが分かる。彼ら獣人人間達には何らかの追跡装置でもつけられているのだろうか。多分そうだろう。

 でなければ彼らがあのレストランに飛び込んで来た時もあれほど早く包囲網を敷く事は出来なかったはずだ。恐らくあの魔石だな。

 そうとわかれば後は簡単だとゼロは先回りしてこの森の魔物達を駆り立てた。ゼロの威圧を持ってすれば容易い。恐れをなした魔物達はゼロとは反対の方向に逃げ出した。そしてそこには追跡班達がいた。

『さて獣人ではなく魔物に対してお前達が何処まで戦えるか見せてもらおうか』

 突然の魔物の大群の襲撃に恐れをなした追跡者達はパニック状態になって逃げだした。その時6人が魔物の餌食になり4人は命辛々森を抜けだした。

 ゼロが彼らの死体を調べたら確かに追跡装置を持っていた。後はこの追跡装置を使って獣人達を追えばいい。

 この森の中心部に近い所で追跡装置が例の3人を捉えた。普通の人間なら森のこの深みまで来たらとうに魔物に殺されていてもおかしくはないが、流石は獣人の力を持つ者だ、魔物を蹴散らしていたか。

「よう、久しぶりだが元気か」
「誰だ貴様は。お前はあの時の冒険者か」
「そうだ、あんたは確か42号だったか」
「どうしてここにいる。いや、どうやって俺達を見つけた」
「これだよ、ほれ。お前らを追跡していた奴らが持ってた」

 そう言ってゼロは追跡装置を彼らの前に投げた。3人はやはりこれかと言う顔をしていた。

「やっぱり奴らは追跡してきたか。それで奴らは」
「6人は死んだ。4人は逃げたよ」
「お前がやったのか」
「いいや、この森の魔物だ」
「魔物がまたどうして」

「お前らだって魔物の襲撃はあっただろう。あいつらだって同じさ」
「それはそうだが、じゃー何故お前は無事にここにいる」
「俺は冒険者だからな、こう言うのは専門なんだよ」
「それで俺達に何の用だ」
「なぁ、聞かせてくれないか、お前達に何があったのか」

 その時横にいた2人がいきなりゼロに襲い掛ったがあさりと倒されてしまった。

「あんたら兵士だろう。戦場では役に立つかもしれんが森では無理だな。それともあんたまた獣人化して俺を倒してみるかい」
「いや、いい。どうやらお前は俺達の敵ではなさそうだ」
「いいのか42号、こんな奴を信用して」
「お前らならどうだ。敵なら追跡装置を手放したり俺達に顔を晒して話をするか。しかもこいつは俺の力を見てる。俺は信じてもいいと思ってる」
「お前がそう言うのならいいだろう」

 彼らは警戒を解いてゼロにこれまでの事を話し始めた。

 彼らは帝国の兵士で、今回彼らを追っていたのは反帝王派の旗頭たるマスリスト公爵家の手の者だった。

 マスリスト公爵と言うのは現帝王の従兄で以前から治世に於いて意見が合わなかったらしい。それでマスリストは王家の転覆を計っているらしい。

 その先頭に立ってるのがマスリストの懐刀と言われるカーネル執行官、全ての裏方の仕事を請け負っているらしい。

 そこに今回はドメイグ博士なる狂人科学者が手を貸している。その科学者が彼らを獣人に変えた。何でも昔の超古代遺跡から手に入れた機材と秘密文書を読み解いて実験をしているとか。

 26号と42号と言われる二人はその改造手術を受けたがこの二人はまだ受けていない。ある日実験が失敗してちょっとした事故が起こった隙に逃げ出して来た。それでも直ぐに発見されてしまったが。

「そうか大体わかった。あいつら王子を狙ってるらしいぞ」
「王子を、どう言うことだ」
「何でも10日後に王子がメルトバンと言う所に来るそうだ。そこで何かやるつもりだろう。詳しい事はわからんが」
「そうか、成人の儀式だな」
「成人の儀式?」

「そうだ王子は今年で16歳になられる。王子は16歳になると成人の儀と言うものをやるんだ。その場所がメルトバンだ」
「なるほどな、そこで王子を誘拐するか殺害するかだな」
「恐らく殺すだろう。その為の駒が俺達だ」

「そうか、お前達が王子を殺せば獣人国が殺したと言う事になる。そうなると派兵もあり得る。そうなれば帝都は手薄になると言う事か」
「多分、そうだろうな」
「で、お前らはどうする」

 ゼロにそう聞かれたが二人ははっきりとした返事が出来ずにいた。

「それは何とかしたいさ。俺達だって王家の兵士だ。しかし相手の力が強過ぎる。あいつらは42号の様なバケモノを数体、いや今なら数十体持ってるかもしれん。あっ、すまん42号」
「気にするな、事実俺はバケモノだ」
「お前はどうだ。42号」
「俺は戦うさ、こんな体にしたやつらに復讐してやる」

 その返事を聞いてゼロは一つの結論を出した。

「わかった。ここからそのメルトバンと言う所まで10日で行けるか」
「そうだな、馬を乗り継いでいけば8日か9日で着けるだろう」
「ならあんたら二人はそうしてくれ。向こうに着いたら自分達が経験した事、見た事を話せ。信じてくれるといいが」
「ああ、でも今回は護衛の中にきっと俺達の知り合いもいると思うから何とかなるかも知れん」
「じゃー行ってくれ。これは路銀だ。多分これで足りるだろう」

 そう言ってゼロは金貨を十数枚渡した。

「あんたは何でこんな事までしてくれるんだ」
「酔狂かな。俺は人生に退屈してるのさ。それで42号と俺はこっちを叩く」
「わかった。俺の命を賭けてやってやるさ。どっちみち短い命だ」

 獣人になった人間は長くても1年しか生きられないらしい。しかもメンテがあって1年だ。放っておいたら2~3カ月で死ぬらしい。

 ゼロは3人を森の外まで連れて行った。そこからは二手に分かれてそれぞれの分担を果たす事になった。

「頼むぞ、ケリン、バースト」
「ああ、任せてくれ。お前も一人で死ぬなよ。俺達は同期だからな死ぬ時は一緒だ。マーカス軍曹」
「ああ」

 こうして二組はそれぞれの目的地に向かって進んで行った。ゼロと42号、本名マーカスとは彼らの実験施設に向かった。

 中に潜り込むには結界を破らなければならい。ゼロなら簡単に通り抜けられるがマーカスではそうもいかない。さてどうしたものか。

 もし結界の外で何か起これば結界を解いて調べに来るかなとゼロは思った。しかし攻撃的なものでは返って出て来ないだろう。何か興味のあるものの方が良い。

「なぁ、マーカス、もしあんたの目の前で魔物が破裂したら気になるか」
「それはまぁ、気にはなるだろうな」
「しかもその体の中に宝石があればどうだ」
「それは当然回収に行くだろう」
「だろうな」

 この辺りにはレーンボアと言うイノシシに似た魔物がいる。ゼロはそいつを捕まえて来て以前に回収してあった宝石を飲み込ませた。

 それからササゴールと言う町で手に入れて改造した手榴弾も飲み込ませてゲートに向かって走らせた。するとゲートの手前で手榴弾が爆発して腹の中の宝石がキラキラと散らばった。

 それを見た門番達が周りを伺い誰もいないとわかると結界を解いて二人で喜び勇んで飛び出して行った。その間にゼロ達は結界内に入り込んだ。

「なぁゼロ、さっきのあれは何だったんだ。いきなり爆発したぞ」
「一種の時限爆弾のようなものだ」
「そんな物がこの世の中にあるのか」
「まぁ、ある所にはあるさ」

 それからゼロ達は建物の中に潜り込み中の様子を伺った。あと1週間と言う事で作業は佳境に入っていたようだ。あの科学者も作業員たちも慌ただしく動き回っていた。

 実験室の様子を陰から眺めてみると頭に何かの信号を送られているような獣人が10体ベットに括り付けられていた。それと檻の中にも10体ほど。こっちは完成品だろう。これらはやがて人間の体に戻って行くんだとマーカスが言った。

「と言う事は少なくとも20体は完成してると言う事か」
「そうなるな」
「お前の場合は何が欠陥だったんだ」
「俺はあの頭に信号を埋め込まれる前だったので俺自身の意思を持っていたと言う事だ。奴らが目指してるのは意思を持たない獣魔人、命令一つで何でもする獣魔人だと言う事だった」
「つまりロボットか」

「何だそのロボットと言うのは」
「いや、何でもない。で、あの獣魔人は元の人間に戻れるのか」
「だめだそうだ。一旦ああなったてしまったらもう人間の意思は持てないと。俺もたまたま奴らが話してたのを聞いたんだが」
「そうか、なら浄化してやるしかないか。時間が経てば状況が悪くなるだけだな。よし潰すか」
「おい、潰すってまじか」

 ゼロは陰から飛び出し、その辺りに転がってる鉄の棒を拾ってそれで作動している機械を叩き壊した。どう言う動力で動いているかはわからないが激しい光の玉が飛び散った。

「き、貴様何をした。これがどれほど貴重な物かわかっておるのか」
「狂人の機械だろう。ならこの世にない方が良い」
「馬鹿な事を言うな、太古の英知の結集に何と言う事をする」
「ついでにお前も太古と共に消え去ったらどうだ」
「ゆ、許せん。今直ぐ獣人共を起こせ」
「ドクター、まだ最終調整が済んでませんが」
「構わん。こいつらを殺すんじゃ」

 そして組み上げられたばかりの獣魔人が起動させられた。始めは周りを伺うように眺めていたがやがて奇声を発して暴れ出した。

 やはり完全なコントロールが効いてないようだ。人としての意思がないなら獣としての感情だけでしかない。しかもかなり凶悪な感情移入がされているようだ。

 これがコントロール下であれば有益な兵器として活用出来ただろが、今のこいつらはただ暴れ狂う獣に過ぎなかった。

 しかも悪い事にその力は並みの獣を遥かに凌駕する。腕の一振りで人間の体が千切れ飛んでいた。この実験場はもはや屠殺場と化していた。

「馬鹿な、何故制御出来ぬ。殺すのはわしらじゃない。こいつらだ」
「無駄だな、俺がメイン・コントルール・ユニットを壊したからな。もう制御は出来んよ」
「何だと、何故だ、何故お前はそれを知っている」

 実験場の中では獣魔人同士の殺し合いすら始まっていた。マーカスもこのままでは命が危ないと思い獣人化をした。マーカスは一匹の虎となって獣魔人達と戦っていた。

 しかしマーカスの力を持ってしても二体の獣魔人と渡り合うのが精一杯だった。それだけ今回の獣魔人は力が上がっていた。

 ゼロはそろそろ決着をつけるかと持った鉄棒に気を流し始めた。鉄棒は青白く輝き何者をも寄せ付けぬ威光を放っていた。

 そしてその一閃一閃が獣魔人もそこにいる全の者を永劫の闇の彼方に葬り去った。

「なぁゼロ、あんたは一体何者なんだ。人じゃないだろう」
「ただの冒険者さ」
「良く言うぜまったく」

 それからゼロは実験場の機械を調べてある確信を持った。これなら出来ると。
 
「マーカス、お前に二つの選択をやる」
「何だ」
「元の人間に戻りたいか、それともこのままでいたいか」
「俺を人間に戻せるのか」
「ああ出来る」

 その答えを聞いたマーカスは考え込んでいた。

「なぁゼロ、人間に戻れるのはありがたい。しかしそれでは王子は守れない。奴らから王子を守るには力が足りないんだ。ならこれでいい。俺の命が尽きるまでこの力を使って王子を守ろうと思う」
「そうか、そう言うと思ったよ。ならマーカス、お前の寿命を延ばしてやるよ」
「どう言う事だ」

「獣魔人が1年で死ぬと言うのはその力の原動力に自分の命を使ってるからだ。命の代わりになる物があれば寿命を削る事はない」
「そんな物があるのか」
「あるさ、強力な魔物の魔石だ。少なくともAランクはいるがな」

「Aランクの魔物、それは無理だな。この辺りにはいないし、仮にいてもそんなものを討伐出来る者はいない」
「心配するな、それは俺が持ってる。確かキュプロスの魔石だったな」
「お前、それは本当なのか。キュプロスを倒せるのはAランクのそれもトップクラス位のものだぞ。信じられん」

 ゼロはここの機械を使ってマーカスの再手術を行った。原動力の配線をマーカスの命からキュプロスの圧縮した魔石に振り替え、幾つかの機能も追加した。これで少しはましな戦いが出来るだろう。

 それから古代遺跡の資料には貴重な物が一杯あった。しかもそれはゼロの世界のフランス語で書かれてあった。これじゃー解読に困る訳だ。ゼロはフランスの外人部隊にいたのでフランス語も完全習得していた。

 そこでゼロは面白いものを見つけた。それは魔物の鬼蜘蛛の丈夫な糸で編んだ伸縮自在の衣服の作り方だった。これならマーカスが獣魔人化して服が破けるのを防げそうだ。何時かその素材を用意してプロに作ってもらうか。

 その後必要な物は全てストーレッジに放り込み、この後誰かがまた悪い実験に使わないように建物ごと全てを破壊した。

「なぁゼロ、一つ気になる事があるんだが」
「何だ」
「俺より先に完成されたプロトタイプの獣魔人2体が見えなかったんだ。俺達が見たのは20体の獣魔人だったがもう2体いたはずだ」
「完成された獣魔人2体か。恐らくそれは先にメルトバンに送られたかも知れんな」
「それじゃー」
「ああ、そうだ。マーカス、俺達もメルトバンに急ごう」
「そうだな、そうしよう」