こんにちはpedcardです。
今日もPICU(小児ICU)の当直明けです。あえての3連休の中日にPICU勤務を入れたのに、娘の運動会が雨で順延し、勤務とかち合ってしまいました。。。裏目にでちゃいました、残念。同じ思いをしているお父さん、お母さんたちは多いんでしょうね。
さて、今日はシナジスについて書いてみようと思います。このブログを読んでくださっている方はご本人が先天性心疾患の方や、ご家族・ご親類に先天性心疾患の患者さんがいらっしゃる方が多いと思いますので、シナジスについて聞いたことがあるのではないかと思います。でも患者さんによっては自分や自分のお子さんには案内が無かったなんてこともあると思いますので、ここにまとめてみたいと思います。
●本日のテーマ:シナジス
●薬の名前:(商品名)シナジス (一般名)パリビズマブ(遺伝子組み換え)
●英語の名前:palivizumab (genetical recombination)
●使用目的
RSウイルス(respiratory syncytial virus)感染による重症呼吸器感染症の発症予防
RSウイルスは乳幼児期以外の人にとってはいわゆる風邪の原因ウイルスでそんなに怖いものでもなく、検査もしないものです。しかし、乳児期のお子さんにとっては細気管支炎などの重症呼吸器感染症の原因として小児科医が非常に恐れているウイルスの代表格です。基礎疾患をお持ちのお子さんにとっては生命の危険となりうるものであり、患者さんを限定して予防を行っています。
●シナジスって何?
詳しくは接種する際にもらえるパンフレットを参照してください。ポイントは予防接種ではないということです。
本当は予防接種のように、事前にウイルスのかけらや弱ったウイルスを投与して、勝ち方を免疫細胞に覚えさせるというのが長く免疫を維持するには有効です。そうすると勝ち方を知っているので、ウイルスが身体に入ってきた時に白血球が抗体(菌やウイルスを倒すミサイルみたいなものです)を作って退治するのです。
一方、RSウイルスについては上手く予防接種のワクチンが作れませんでした。そのため、シナジスとよばれる抗体(ミサイルでしたね)を直接身体に入れます。そうすると抗体が壊れてなくなるまでは身体を守ってくれるのです。ただし予防接種のように必要な時に抗体を作るのではなく、来る前から抗体が身体を巡回して守ってくれる体制を整えておく必要があるので、定期的に補充する必要があります。
●適応・対象患者
シナジスの適応は大きく4つの群に分かれます
(1) 早産児
(2) 先天性心疾患
(3) 慢性肺疾患
(4) 免疫不全症・ダウン症
の4つです。
(2)の先天性心疾患の患者さんや(4)のダウン症のお子さんが私たち小児循環器科医が主に関わります。ただすべての先天性心疾患の患者さんが該当するわけではなく、
ガイドライン上は、
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先天性心疾患を有するRSウイルス感染ハイリスク児を以下に定義し、RSウイルス感染症重症化抑制を目的にパリビズマブの投与を推奨する。
◎投与対象患者
1) RSウイルス感染流行開始時に生後24 ヵ月齢以下の先天性心疾患児で、以下の症状等が認められる場合。
i. 明らかに循環動態の異常を示す。
ii. 未手術のもの、もしくは部分的修復術や姑息術を受け、症状が残存している。
iii. 術前または術後において肺高血圧を有している。
iv. 手術(心臓または心外手術)、心臓カテーテル検査が予定されている。
v. 循環動態の異常は軽度だが、呼吸器疾患を合併している。
2) RSウイルス感染流行開始時に生後24 ヵ月齢以下の先天性心疾患児で、有意な症状を認めない、もしくは完全修復術を施行された乳幼児において、以下の症状/症候群を有する場合。
i. 染色体異常、遺伝子異常を有する。
a. 21トリソミー(Down 症候群)
b. 他のトリソミー
c. 22q11.2 欠失症候群 等
ii. その他の先天奇形を伴い、呼吸器系の機能的、器質的異常を有する。
3) RSウイルス感染流行開始時に生後24ヵ月齢以下の乳幼児で心筋症、不整脈等を有し、明らかに循環動態の異常を示す場合。
◎除外患者
RSウイルス感染流行開始時に生後24 ヵ月齢以下の先天性心疾患を有する乳幼児であっても、以下の状態の場合は適応に含まれない。
i. 循環動態の異常を認めない心疾患。
a. 小さな体肺短絡性疾患(心房中隔欠損、心室中隔欠損、動脈管開存 等)
b. 軽症の弁狭窄、弁逆流
ii. 手術およびカテーテル治療により完全修復された場合。
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となります。そのためすでに2歳を過ぎてから受診された患者さんにはご案内自体をしていないと思われます。また心内に孔は開いていても小さくて適応とならないと判断された患者さんには担当の先生からはご案内がないかもしれません。特に術後についてはわかりにくいので、担当の先生に確認されたほうがよいと思います。
●使用する時期
RSウイルスの流行に合わせて、地域ごとに。多くは秋から冬。
もともとのガイドラインではRSウイルスは10月頃から流行し始め、3から5月に終息する、そのため感染流行の前からということで、9月から3月という感じで実施されていた都道府県が多かったのですが、実際には地域によって流行にばらつきがあり、それぞれの都道府県での審査の厳しさで流行に合わせて上記以外の時期にも接種できていた地域もあれば、そうでなかった地域もあったようです。
これが2018年の声明で地域ごとの流行に合わせて接種してよいとなりました。そのためこれも担当の先生によく確認して接種してもらってください。大切なポイントは2歳の誕生日よりも前に打ち始める!です。もちろん手術が終わり、肺高血圧も改善し、接種の適応がなくなるのが最も喜ばしいことです。でももしお子さんが必要であった場合は、しっかりシナジスに守ってもらってください。該当シーズンの最初の接種が2歳の誕生日の前であれば、2歳を過ぎてもそのシーズンは接種可能です。繰り返しになりますが、2歳の誕生日が重要なキーワードです。
●なぜ希望者全員が接種してもらえないの?
実はこのシナジスはめちゃくちゃ高いのです。1回に投与する量(ml)は体重(kg)✕0.15となります。10kgで1.5mlですね。0.5ml(50mg)が6万円、1ml(100mg)の瓶が12万円します。10kgでは足して18万円ですね。とても日本の子どもたち全てに流行期毎月接種していては日本が破綻するので、対象患者さんを制限していると言われています。
●予防接種との関係性
いわゆる予防接種とは違うため、予防接種のタイミングをずらしたりする必要はありません。先天性心疾患の患者さんは入院などで予防接種のタイミングがずれやすいため、シナジスでずらしたりすると必要なものが打てなくなる恐れがあります。注意しましょう。
●感染予防はしなくていい?
RSウイルスの重症化を予防するとしていますが、実際には完全に抑えられる訳ではありません。また秋から冬にかけてはRSウイルス以外にも注意すべきウイルスがいっぱいです。基本はご家族が家に持ち込まないことです。ご家族の体調管理を徹底し、人混みにお子さんを連れ出さないという、基本的な感染対策はやはり重要です。
●おまけの歴史
RSウイルスのワクチン(予防接種)は1960年に臨床試験が行われたが失敗に終わったそうです。その経験が以後の開発を遅らせることにつながったと考えられています。しかし2000年以降再びワクチン開発が加速し、現在世界中で約20種類の候補で臨床試験が行われているそうです。近い将来、毎月打たなければいけないシナジスではなく、2、3回程度で済むワクチンができ、現在のシナジスの対象の方のみならず、すべての子どもたちを守れる日がくるといいなと思います。
●まとめ
毎月の筋肉注射は痛くて、泣き叫ぶお子さんを見たくはないと思います。でも大切なお子さんの命を守る本当に重要な薬なので頑張ってうけてください。
ではまた。
参考資料)
アッヴィ合同会社HP
日本小児循環器学会ガイドライン「先天性心疾患児におけるパリビズマブの使用に関するガイドライン」(2005年1月)
日本小児科学会 予防接種・感染対策委員会「日本におけるパリビズマブの使用に関するガイドライン」の一部改定について(2018年4月)