前の記事からの続きです。

2/25に開催された成年後見制度シンポジウムの座談会(弁護士会)での質疑応答をご紹介します。

※会場にいる方が質問して、前に並んだ弁護士9人ぐらいで、質問1つに2,3人の弁護士が答える形式でした。

※質問内容や回答内容に、不完全な部分もあるかもしれません。 もし問題がある場合は連絡をください。

 

質問1)

私の奥さんが認知症で、もう10年以上介護している。私も80代なので、娘が仕事を辞めて実家に戻ってきて介護している状態。任意後見だったら娘に頼むことが出来ると思っていたら、先ほどの説明では、後見人は家裁が決めると聞いたので、娘がなれるかどうか心配です。奥さんは認知症で字が書けません。

 

弁護士の回答)

まず、質問者さんと娘さんとの間で任意後見契約を結べば、必ず娘さんが後見人になれます。ただし、任意後見監督人は必ずつきます。

奥様の認知症の程度がどのぐらいかわからないけれど、字が書けない程判断能力が低下しているのであれば、契約能力がないと判断される可能性があるので、任意後見契約を結ぶのではなく、法定後見を選択することになろうかと思います。

「後見人は家庭裁判所が決める」のは、法定後見の方です。

 

質問2)

診断書は何科のお医者さんに書いてもらうのが良いでしょうか?かかりつけ医として、現在、精神科と内科に通っています。(質問1と同じ方)

 

弁護士の回答)

医師であれば、誰でも書けます。かかりつけのお医者さんに書いてもらうのが良いと思います。精神科でも内科でも、どちらでも構いません。

まずお医者さんに診断書を書いてもらって、その内容により、その次のステップに進むのが良いのではないでしょうか。

 

質問3)

マンションを所有しているが、私が2分の1、奥さんが2分の1の共有名義にしている。

奥さんが先に亡くなった時はいいけど、私が先に亡くなった時に、マンションは奥さんが管理できないので、娘2人に相続させたいと考えているがそれは可能だろうか?娘は2人いて仲が良いです。(質問1と同じ方)

 

弁護士の回答)

仲が良いのであれば親族の意見書(同意書)がもらえると考えられるので、親族(娘さん)が後見人になれると思います。

 

→質問者さんが先に亡くなった時、奥さんは判断能力が既にないと思われるので、遺産分割協議をするために成年後見人をたてないといけないでしょう。

弁護士は親族が後見人になれると言っていますが、遺産分割協議が目的なので、利益相反になるため、最初は娘さんは後見人になれません。(もしなれたとしても、特別代理人をたてないといけません。)遺産分割協議が終わり、相続手続きが終われば、娘さんが後見人になれるでしょう。

なので、質問者さんが先に亡くなる場合は、質問者さんが遺言書を書いて、不動産は娘2人に相続させると書くと良いと思います。こうすることで成年後見人を立てずに遺産分割できます。

ただし、奥様には遺産の4分の1は最低受け取る権利(遺留分)があるので、最低4分の1分のお金は残してあげると良いと思います。

 

質問4)

任意後見と法定後見の違いは何ですか?任意後見契約に何を書いたら良いのかわからない。

 

弁護士Aの回答)

任意後見契約は、指定した人と、あなたがやってもらいたいことを契約で合意します。

公証役場のホームページ等にひな形がありますので、そのひな形を読んで、足りないと思ったことを追加したり、これは要らないなと思ったらその文章を削除すれば良いでしょう。

ひな形があるので、安心してください。

 

弁護士Bの回答)

法定後見は先ほどの説明にあったとおり、取消権があり、本人がした契約を取り消すことができますが、任意後見には取消権はありませんので、注意してください。

 

質問5)

母親が認知症で、父親の死後、不動産を売却するために、成年後見制度を利用しました。

司法書士が成年後見人になったのですが、不動産売却して、母親の財産がどのぐらい残っているのか、何に使っているのか、お金の収支報告が家族に開示してもらえず、心配です。法制上、どこまで開示義務があるとか、どういう仕組みになっているのでしょうか?

 

弁護士Aの回答)

専門職にとって、なかなか耳が痛いご質問です。

その後見人は家裁には報告してチェックしてもらっており、不正はないので、安心してください。

 

弁護士Bの回答)

家族への開示義務があるかどうかについては、残念ながら開示義務はないので、家族に開示するかどうかはその後見人の考えにより、異なります。
特に親族間で対立があるケースでは、一方の家族に教えたのに、もう一方の家族に教えないとかなると、さらに親族間の対立が深まってしまうことも考えられます。
 

弁護士Cの回答)

私もその司法書士さんと同じで、基本的には家族には教えないです。
預金残高というのは、本人のプライベートな情報なので。
 
弁護士Dの回答)

必要であれば、後見人が家裁に提出した報告書等を見せてほしいという申請(閲覧謄写申請)を家庭裁判所に提出することはできます。ただし家裁のオッケーがもらえないと見せてもらえないですが。

 

質問6)

私と姉は仲が良いので、親族間に対立はありません。

母親は、サ高住に入っていたが、出なきゃいけなくなったので、どこの施設が良いか調べるために、お金がどれぐらい残っているか知りたかった。

それでも教えてくれたのは、口頭で「○○万円」ですと、ざっくりとした金額を教えてもらっただけでした。

姉が監護?の後見人をやっていて、司法書士が財産管理の後見人なのですが、皆さんそういうものなのでしょうか?(質問5と同じ方)

 

弁護士Eの回答)

お姉さんが身上監護の担当をされていて、司法書士は財産管理を担当されているのですね。

そういうことであれば、私は財産管理と、親族は身上監護と分担しているケースを担当していますが、お姉さんが「報酬付与申立てするために必要なので、財産目録を開示してください」と言えば、その司法書士後見人は見せてくれると思います。

 

質問7)

成年後見の実務に関する質問で、本人に遺言(いごん)がある場合で、遺言執行者が指定されている場合は、成年後見人ではなくその遺言執行者が本人の代理人になった方が良いのでは?と考えている。しかし成年後見人を受任した段階で、公証役場に公正証書遺言があるかどうか、検索システムを使うことができない。弁護士の皆さんは成年後見人に就任されたとき、どうやって遺言があるか調べていますか?

※遺言を「いごん」と言う所で、この人は法律系学部を卒業されたプロだと思いましたが、この方は行政書士さんらしいです。

 

弁護士の回答

私はまず親族から聞き取り調査をします。ただし親族が知らないケースもあるでしょう。

そこまできっちり探さなきゃいけない義務はないと考えている。死後であればもちろん検索することは可能です。

 

質問8)

後見人の不正についての質問です。時々、後見人の不正がニュースになります。

先週も札幌地検が、2500万円を着服した成年後見人を逮捕したというニュースがあったばかりです。

その対策として、他の士業団体だと、リーガルサポートが6ヶ月に1度にチェックしていたり、社会福祉士ぱあとなあでは、毎月チェックしていると聞いています。

同様な取組を弁護士会で、されているのでしょうか?

 

弁護士Aの回答)

後見人の不正がよくニュースになりますけれども、専門職の不正は本当に少ないんですよ。

不正にも色々あって、法律的に問題ないかということは、同じ弁護士事務所の弁護士仲間に確認しあうことはあります。

 

→親族後見人の不正は、本人と家族の家計を別々にしなければいけないなどのルールを知らないことによる過失(わざとではない)が多いと聞いていますが、専門職後見人の不正は、ルールを知っているのに不正をした(故意に不正した)という意味で、とても悪質であり、1件でもあってはいけないと私は思います。それなのに、「少ないから」という言い訳は通用しないと思います。

弁護士仲間に確認する場合は、おそらく「私はこう考えるけど、君はどう思う?」の様に口頭で確認していると思います。後見事務報告書を見せたり、通帳を見せるということは、個人情報保護の観点からも、絶対しないと思います。

着服しようと考えている弁護士が、「これやったら、業務上横領になるよね?」なんて、弁護士仲間に相談するとは思えません。

 

弁護士Bの回答)

これも先ほどの質問同様、専門職にとって大変耳が痛いご質問です。

弁護士は、他の士業とは異なり、弁護士は独立しており、また懲戒処分の決定も、監督官庁が処分を決定するのではなく、弁護士会(自分たち)で行う特殊な機関になっています。

なので、弁護士会ではチェックを行っていません。

 

弁護士Cの回答)

私は、党紀委員会の委員をしている立場からお答えします。

たしかに、川崎支部では現在後見事務のチェック等は行っていませんが、弁護士の中には「弁護士の不正が無くならないので、リーガルサポートさんなどがチェックしていることを参考に、チェックをするべきじゃないか」という意見もあります。

その意見を受けて、同じ神奈川県内の横浜本庁(横浜支部とは言わないらしい)では、チェックする取り組みを始めたところです。

弁護士会の取り組みは、弁護士会支部ごとにも異なっており、統一された取り組みにはなっていないのが現状です。

 

→弁護士会が、後見人弁護士が着服した際に、賠償する制度(弁護士成年後見人信用保証制度)を導入することになった時も、「なんで不正をした弁護士のために、不正をしていない弁護士がお金を出し合って弁償しなきゃいけないんだ?」「なんで(事実上の)義務なんだ?出したい弁護士だけ出せばいいじゃないか?」などの反対意見が多く、導入がなかなか決まらなかった、という話は聞いたことがあります。

それだけ、弁護士の皆さんは弁護士という仕事にプライドを持っている、ということの裏返しなのだと思います。

 

いかがでしたでしょうか?