3月16日(土)に、中央大学多摩キャンパスに行って、「高齢社会と成年後見・信託」を見に行きました。

中央大学には、新井誠教授がいます。

新井教授は、成年後見制度を変えたいと考えて、変えるには世界から発信すれば良いと考えて、2003年日本成年後見法学会を立ち上げました。

そして、2010年横浜宣言を世界に発信しました。しかし、成年後見制度は変わりませんでした。

 

そこで、新井教授は、士業団体といっしょに各党に陳情してまわり、

ようやく2015年に議員立法で、成年後見制度利用促進法が可決・成立・施行されました。

ついでに民法の一部も改正され、郵便物の転送や死後事務の一部(火葬、埋葬)も、家庭裁判所の許可があればできるようになりました。

新井教授は、有識者会議(成年後見制度利用促進委員会)のメンバーに選ばれました。

そして2017年3月に、有識者会議の意見を元に、成年後見制度利用促進基本計画が閣議決定されたのでした。

 

新井教授は、成年後見制度の第一人者で、日本の成年後見制度をひっぱってきました。

2000年に、禁治産制度から成年後見制度になったときも、キーパーソンでした。

当初、「任意後見制度は難産だった。弁護士会、司法書士会、他の学識経験者の多くは反対されていた」「けれど、各団体を説得してまわって、ようやく成立したんだ」という話をしていました。

新井教授の話を聞けば、日本の成年後見制度が今後どういう方向に向かおうとしているのか、わかります。(わかる気がします。)

 

第1部では、中央大学大学院法学研究科ゼミ生による発表がありました。

法学研究科では、社会人にも門戸を開放しており、明石市役所生活保護担当の人と、飯能市生活保護担当の人からも、発表がありました。

明石市の事例として、

①明石市後見支援センターができてから、申立て件数は倍々で増えているが、後見類型の申立てが減った

②日常生活支援事業を解約した人は、法定後見(後見・保佐・補助)に移行している

③市民後見人の養成方法の紹介

④独居女性が寄付した1000万円を基に活動支援基金を創設して、後見人報酬に充てている

という発表がありました。

飯能市の人は、本人の財産管理をして貯蓄ができた分を後見報酬とするようにするべきという提案がありました。

二人に共通している事は、市の財政から負担する額が減り、本人の負担が増えたということです。(本人はそんなこと、ひとことも言っていませんが)

 

最後に総評を発表したのは、厚生労働省の川端専門官(女性)でした。

川端専門官は、介護士、社会福祉士の資格を持ち、後見人もやったことがあり、報酬167円だったと紹介していました。

川端専門官の思いは、後見人は市民の立場で、市民の経験・専門性を生かしていくべき、ということが、ひしひしと伝わってきました。

 

第2部の前半では、基調講演がありました。

基調講演では、厚生労働省 成年後見制度利用促進室の梶野室長、大貫司法書士、高橋司法書士、三井住友信託銀行の八谷部長、中央大学福田助教が、それぞれ10分~15分発表していました。

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↑厚生労働省 成年後見制度利用促進室 梶野室長 (思っていたより若い人でした)

 

厚生労働省は、成年後見制度の主管省庁として、他の省庁の進捗状況を管理したり、地方自治体で「地域連携ネットワークづくり」「中核機関(センター)ができているかどうか進捗状況を管理しています。

 

最高裁では、成年後見制度の診断書のフォーマットが4月から変わります

次は、「財産管理のみならず、意思決定支援・身上保護も重視した適切な後見人の選任・交代」に手を付けるでしょう。

↑梶野室長の発表資料の一部 適切な後見人の選任・交代

 

現在、家庭裁判所は、適切な候補者のイメージがわからないまま、後見人を選任しているけれど(と言っているところが、ある意味すごい事)、将来の目指すべき姿は、後見人がメリットを実感できる後見人等を選任するために、中核期間が後見人を推薦して、家庭裁判所が最終決定として選任するイメージになっています。

 

金融庁がやっていることは、後見制度支援信託だけでなく、後見制度支援預金が、信用金庫などを中心に全国にひろがりつつあります。

私の地元神奈川県でも4月1日より、JAバンク神奈川で後見制度支援預金が開始されると発表がありました。

 

第2部の後半では、モデレータ:新井教授、パネリスト:梶野室長、大貫司法書士、高橋司法書士、八谷部長、福田助教によるパネルディスカッションがありました。

テーマは、第2部の前半と後半の間に、アンケート用紙を回収して、書かれていた質問に、パネリストが答えるという方式でした。

 

私の質問も、きちんと一字一句読み上げられて、梶野室長が答えていました。

梶野室長の答えは、質問の回答になっていなかったので、新井教授が、「確かにこの通りです。国は○○するべきでしょうね」と答えてくれただけで、私は満足です!

 

大貫司法書士は、成年後見制度と民事信託を組み合わせれば、自益(=成年後見制度)と他益(=民事信託の受益権が移転すること)の両方を兼ね備えた仕組みができる、と言い、「ふくし信託(株)」を設立することを発表していました。

受託者になるのは、弁護士または司法書士の資格を持った民事信託士だそうです。

この大貫司法書士は、ご自身の車のナンバーを858にしてしまうほど、民法第858条を大切にしているという変わった(?)司法書士さんです。

 

高橋司法書士の地元、飯能市の事例紹介が、とても参考になりました。

身上保護を市民後見人で、財産管理を飯能市社会福祉協議会で受任して、市民後見人には時給で報酬を支払っているということでした。

 

新井教授のもとには、ゼミ生としていろんな人が集まります。

日弁連信託センターのセンター長 伊庭弁護士も、ゼミ生のようで、一般参加者の中にいたので、新井教授から紹介されて、弁護士会としての取組みを発表していました。

「登壇者の皆さんを批判するわけではないですけれど、弁護士は、1から10まできちんと理解しないと手を付けない性格の人が多いので、成年後見や民事信託に携わっている人は少ない」と話していたのが印象的でした。

※1から10までというのは、リスクがある仕事は請けない、報酬が割に合わないと思ったら請けない、という意味かな、と思いました。

 

日野市の社会福祉協議会の方もゼミ生のようで、一般参加者の中にいたので、新井教授からいきなりふられて、日野市の事例紹介をしていました。

日野市では、認知症高齢者が徘徊してしまい行方不明になると、認知症サポーターなどに一斉メールが飛ぶシステムがあります。

川崎市にもそういうシステムはあるのですが、個人情報保護の観点から、警察、消防、役所、包括などに限られており、認知症サポーターなどの市民の希望者にメールはしていません。

 

モデレータ(司会)の新井教授が、最初パネルディスカッションの終了時刻を1時間間違えてしまうという事件がありました。新井教授は、授業と勘違いしたのでしょうかね。

 

参加者の中の質問で、私が一番印象に残った質問は、「登壇者のみなさんは、任意後見を薦めるけれど、ご自身が認知症になることに備えて、誰かと任意後見契約をしていますか?まだの場合、誰と契約する予定ですか?」という質問でした。

士業のみなさんは、最初「受任者として何人の人と契約を結んでいる」という回答をしたのですが、質問者の方から、「ご自身は?」と再度質問されて、しかたなく皆さん、「家族です」とか、「息子です」と答えていました。

 

福田助教(女性)は、46歳独身で子供なしというプライベートを明かして、「性格がまったく違う兄には頼めない。兄は几帳面な性格で、私はざっくばらんな性格なので、兄に頼むと私の生きたい様に生きることができなくなる」と言って、「大貫先生が設立する会社に頼もうかしら」と答えていました。

 

新井教授は、「時間を間違えたので、私は既に補助相当かもしれません」と言いながら、「私は、妻と娘の二人と任意後見契約を結ぼうと考えています。二人と契約する理由は、お互いけん制しあう、チェックするから」と答えていました。

登壇者の皆さんは、当事者として、まだ誰とも任意後見契約を結んでいないのでした。

 

また来年も参加したいと思います。