私は、この時期になると読みかえす本がある。それは、記録文学といえる①吉村 昭著「深海の使者」と ➁深田祐介著「美貌なれ昭和」です。この両著には共通する3人の人物が
登場する。
読むたびに三人は、それぞれの才能によって昭和初期の日本からヨーロッパへと飛び出していった。飯沼と塚越は国産機「神風号」を操縦してイギリス国王ジョージ6世の戴冠式奉祝のため東京ーロンドン間飛行を行い、世界記録を打ち立て、諏訪根自子は若くしてヨーロッパで活躍するヴァイオリニストとなった。世界水準を超えた若者たちの記録である。
そこには、世界へ向かって開かれていく日本の明るく希望に満ちた一面があった。しかし、その後、515事件、226事件から昭和は急速に軍国主義化し戦争へと傾いていく。
三人の人生を並べてみると、才能や努力だけでは抗うことのできない「時代の力」というものを感じる。平和な時代であれば、航空技術や音楽によって世界に羽ばたいたはずの若者たちが、戦争が始まると、その才能や境遇そのものによって戦争に巻き込まれていく。
私がこの二作品を読んで最も強く感じたのは、昭和という時代には「美しいもの」と「暗いもの」が同居していたということである。「神風号」の快挙や根自子の演奏には、世界へ開かれた日本の姿がある。しかし、その数年後には戦争がそれらを覆い隠してしまう。
以下は3人の略歴です。
・飯沼正明(航空士・朝日新聞社)
昭和12年、塚越賢爾とともに「神風号」で東京―ロンドン
間の世界記録を樹立する。日本の航空技術の輝かしい象徴
となった人物です。ところが、わずか4年後、太平洋戦争開
戦直後に事故で死亡します。
・塚越賢爾(機関士・朝日新聞社)
「神風号」で飯沼とともに世界的な栄誉を得た人物。しかし
戦争になると、その航空技術が今度は日独間の戦時連絡と
いう、ほとんど不可能に近い任務に使われます。そしてイ
ンド洋上で消息を絶ちます。『深海の使者』にも、その悲劇
が別の角度から現れます。
・諏訪根自子
少女時代から世界的なヴァイオリニストとしてヨーロッパ
で活躍し、まさに「昭和の華」のような存在でした。しか
し戦時下のヨーロッパでナチス・ドイツの要人との関係を
持つことになり、戦後にはそのことが彼女の人生に重い影
を落とします。
・2018年 諏訪根自子のSPレコードのCD復刻版が発売
これは、大先輩からいただいたものです。













































