

中学を卒業してから2度目の夏
一度だけTさんに会った。
見た目はほぼ変わらないけど
なんだか違う人に見えた。
2年の間に違う経験を積んだ僕ら
お互いがあの頃とは
違う人間になっていたんだと思う。
あの時代はもう戻らない。
礼儀正しくおじぎする彼女の姿も
もうそこにはなかった。
Tさんとの物語の幕引きだった。
エレキ弾くようになってから
アコギはほとんど弾かなくなった。
それがなぜか10年ほど前に
弾いてみたくなった。
久しぶりでも弾けることは弾ける。
だけどおかしいのだ。
なぜか歌えない。
胸が熱くなって歌えない。
アコギを手にすると
サウンドホールから
音と一緒に
いろんな思い出がこぼれ出てくる。
Tさんの家に遊びに行っていい?
そう聞くとダメだと言ってたな。
なかなか理由を言ってくれなかったけど
ある日ポツリと僕にこう言った。
わたしの家一階建ての平屋だから
pecoちゃんに恥ずかしいの。
そんな他愛ないことが恥ずかしいだなんて
女の子っておかしな生き物だ。
中学3年の時に購入したイルカの楽譜。
何度かTさんに貸したこともある楽譜だ。
14歳だったころの僕の筆跡が今も残っている。
イルカの楽譜には
幼かった僕とTさんの物語が封印されている
魔法の本。
魔法の本を広げて
ギターをポロンとつま弾く。
すると不思議なことに
音符と音符の隙間からTさんが
ヒョッコリ顔を出す。
久しぶりだね。
な〜〜んだ長いこと
こんなところに隠れていたんだ〜。
また1小節ポロンとつま弾く。
今度は音楽室の風景があらわれる。
少しだけ茶色いおかっぱの彼女の髪の毛が
夕日に照らされて赤く輝いてる。
僕はこんなに歳とってしまったけど
君はあの時のまま歳をとらないんだね。
そう話しかけるとただ笑ってるだけ。
なんだ
幻を見てたのか。
ギターを弾くのを止めて
ギターをスタンドにたてかける。
静寂な部屋にカタッと響く。
ふと後ろに気配を感じて振り返る。
ドアの向こうに礼儀正しくおじぎする彼女が
いるような気がした。
今もたまに彼女のこと思い出します。
彼女が生きてるのか
死んでるのかさえわからない。
でももし生きてたら
僕が記憶してる
当時の彼女のことを教えてあげたいな
だから昨日歌ってみた。
見知らぬ街のあの少年に
届けておくれこの言葉を…
風にのって届いたかな?
またはwww.youtube.com/watch?v=75QadkpQGrE
◎イルカ「風にのせて」
見知らぬ街のあの少年に
届けておくれこの言葉を
風に揺れる花を
きれいねとあの人は言った
僕は今まで何も気づかなかった
風に揺れる花が君には見えますか?
見ようとしなければ
何も見えはしないのです
急ぎ足で通り過ぎて行くなんて
君にも知ってほしいな
心の扉をあけて
君に聞こえますか?
僕のこの声が
いつまでもうつむいていないで
顔をあげてごらん
風に揺れてる花が
そこには見えるはず
今すぐ届けてあげたいな
あの人からもらった微笑みを君にも
風にのせて
とても悲しいことがあった時
辛い時
誰でもほかの人から
微笑みをもらうものです
そして自分も微笑むことが
できるようになるのです
だから今度は君にも微笑みをあげたい