風にのせて(中編) | がらくた通り3丁目

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人にとってはまるで無価値。それも一個人の形成には不可欠。自我の源泉をたどる旅。おつきあい頂けたら幸いです。




誰に対しても深々とおじぎをする
とても礼儀正しいTさんを連れだし
移籍したフォーク・グループは
フォーク・ギター担当が
5人もいるグループだった。

ひとりギターの上手いやつがいて
そいつはリードギター
あとの4人は同じフレーズの
ストロークをするのみ。

ちょうど幼稚園の発表会で
主役が何人もいるような感じだ。
いまから考えるととても滑稽だ(笑)

僕はボーカルも兼任してた。
そしてTさんはオルガン担当。

Tさんとは同じクラスだったから
僕ら二人はいつも他のメンバーより先に
音楽室に行って一緒に弾き語りしていた。

メンバーが帰ったあとも
僕らだけ少しだけ残ってまた弾き語り。

彼女はピアノが得意だったのだが
ギターもはじめたばかりだった。
彼女より少しだけギター歴の長い僕は
得意気に少ない知識をひけらかして
ギターの手ほどきをした。

彼女が大好きだった曲
イルカの「風にのせて」を
一緒によく弾いていた。

見知らぬ街のあの少年に
届けておくれこの言葉を…

キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン
太陽が西の空に黄昏れるころ
歌をさえぎるように
下校時間のチャイムが鳴る。

それを合図に
楽譜から目を離し顔をあげてみると
大きな窓から差し込む
オレンジ色の夕日の光が
教室の机の上に腰掛けてる彼女を
優しく包み込んでいた。

他の女の子より少しだけ茶色い
おかっぱの彼女の髪は
夕日をあびてさらに赤く
キラキラ輝いてとてもきれいに見えた。

少しの間見とれてたら
そんな僕に気がついて彼女も楽譜から目を離し
僕を見てニッコリ微笑んだ。

クラスの席替えもこの頃あった。
席はクジ引き。
ズルして彼女と隣同士になった。
この頃は毎日交換日記してた。

学祭も終わっていよいよ受験勉強も本番。
土曜の午後は一緒に図書館に行って勉強もした。
同じ高校に進学しようって約束してたから。

彼女とSさんは志望校に合格したけど
僕は受験に失敗した。

みじめだった。

そしてこの日が別れの記念日になった。

僕は住んでいた岩見沢という町から
列車で50分ほど離れた
札幌の高校に行くことになった。

卒業して2年後に
Tさんに一度だけ会ったけど
礼儀正しくおじぎする彼女の姿は
もうそこにはなかった。